ずっと好きでも、綺麗でも!

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 一ヶ月前の合コンのことを思い出す。結局のところあの合コンからカップルは一つも成立しなかった。その後、連絡を取り合っているのも私と三城さん――もとい、みきちゃんくらいだ。  なんだか友達になったら「みきちゃんって呼んで欲しい」と言われた。それからみきちゃんとはLINEで連絡を取り合っている。  スキンケアのこととかお化粧のこととか、こんなに聞きやすい友達が出来るなんて思っていなかった。女の子同士って話しやすいこともあるけれど、私みたいな女子力劣等生は、逆に臆してしまうこともあるのだ。  そんな私に神様が遣わしてくれた新しい親友――みきちゃん最高っ! 「お姉ちゃん、ごめんこのペンシル借りていい? なんだか私のやつポッキリいっちゃって〜」 「ん〜、いいよ〜」  二階で化粧台に向かっている摩耶の質問に、リビングのソファに寝転びながら応える。ちなみに私も今日は友達とお出かけの予定。だから、私の方はすでにお化粧は終えているのです。偉い。  今日は摩耶の誕生日。しかも休日だから妹はもちろんデート。相手はもちろん陽介。陽介とはあの合コン以来会っていない。まぁ、ただの腐れ縁なので、一ヶ月や二ヶ月会わないのはいつもの話なんだけれど。  そういえばあの日、空気が読めない陽介は、私のおでこのニキビのことを指摘してきたのだった。そんなことを思い出して、スマートフォンのカメラを起動しておでこを確かめる。ニキビの跡は綺麗に消えていた。  日にち薬もあるけれど、みきちゃんに教えてもらったニキビケアが効いたのもあると思う。――みきちゃん最高っ(本日二度目)!  そうこうしている内に玄関のチャイムが鳴った。 「はーい!」  ドアホンの液晶画面を覗くと、案の定、陽介だった。 「――摩耶〜! 陽介来たよ〜!」 「わー、今、手が離せないの! メイク中だしぃ〜! お姉ちゃん出てよ、ちょっと待っててもらって」 「え〜、あんたのお客でしょ? 自分で出なさいよ」 「いいじゃん! お姉ちゃん〜、今日、私の誕生日でしょ〜。ちょっとくらいワガママ聞いてよ〜」  どういう理屈だ、と思いつつもも「はいはい」と玄関へと歩いていく。  扉を開くと、いつもの陽介が立っていた。  いつもの陽介。私の好きな腐れ縁。 「あ、杏耶じゃん。おはよう」 「おいっす〜。摩耶まだ準備中。上がって待っててよ。なんならコーヒーでも入れるけど?」 「んー、まぁ、そっか。ちょっと早かったかもな。じゃあ、お言葉に甘えて待たせてもらうよ」  そう言うと陽介は革靴を脱いで、家の中に上がってくる。  何だかそんな仕草の一つ一つが、高校生の頃と違って、大人っぽくなったなぁって思うのだ。  陽介が鞄を床に置いてダイニングテーブルの席に着く。  自分で言った手前、コーヒーを入れて差し出す。こいつがミルクを入れることくらい知っているので、先にミルクは入れてしまって、マグカップで。  まぁ、私も飲みたかったし、実はついで。 「――どうぞ」 「――ありがとう」  机の上にカタリと音を鳴らしてマグカップを置く。  彼がその取っ手を掴んで口元に運ぶ。  私が前に座って同じようにミルクコーヒーを飲む。  ふと気づくと、陽介がじっと私の方を見ていた。 「――何?」 「杏耶さあ、……最近,キレイになった?」 「――気のせいじゃない?」  陽介は「そうかなぁ」とか言っていたけれど、その話はそれでおしまい。しばらくすると、摩耶も二階から降りてきた。 「おまたせ〜、陽介〜! お姉ちゃんお相手ありがとう〜!」 「おお、準備できたか。じゃあ、行くか。じゃあ、杏耶ありがとう。コーヒーごちそうさまでした」 「どういたしまして〜」  そして二人は連れ立ってデートへと出掛けていった。  家で一人になった私は、ふらっと洗面台の前に立ってみた。  鏡に写る自分の姿を見つめながら、さっきの陽介の言葉を反芻する。 『最近、キレイになった?』  そんなことを言われても、私が妹に取って代われるわけじゃないのは分かっている。それでも、なんだかちょっとスッとした。  陽介が私を女性として認識してくれいるってだけで、嬉しいのかもしれない。  今日は友達と遊びに行く日。スマートフォンを開くとミキちゃんからメッセージが入っていた。  相変わらず私には新しい白馬の王子さまも現れなくて、高校生の頃から変わらずに片思いを拗らせたお独り様。  どこか焦り初めていたけれど、もう少し気楽な二〇代を過ごしてもいいかなって、――そう思った。
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