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レストランの裏手はウッドデッキになっていて、川の流れが一望できた。夜空の下で涼しい風が吹いていて、大きく息を吸う。
合コンは宴もたけなわ。少し明かりの落とされた照明と、騒々しい店内に少し疲れて、外の空気を吸いにきたのだ。なんだか生き返る。
外から見れば素敵だった川沿いのレストランも、テーブル席に座ってしまうと同じだった。
でも、こうやって休憩でウッドデッキに出てくると「正解だったなぁ」って思う。ていうか、この休憩時間こそ、このお店の真価が発揮されるところなのかもね。お一人さまだけど。そんなことを考えながら木の柵に両肘を突いた。
「ここは涼しいし、静かだね。――隣、いいかな?」
不意打ちみたいに声をかけられて、弾かれたように振り返る。そこには三城和真さんが立っていた。私の返事も待たずにウッドデッキの手すりに両肘を突く。
白いシャツをまくって肘を出している。なんだかそのシャツも少し薄手で男性っぽくなかった。
「あ、いいですよ〜。ここすごく良いです。当たりです」
「随分と暑くなってきたけれど、そういう時の夜風って気持ち良くて好きだな〜、僕。西宮さんも?」
名前を呼ばれて、少し嬉しくなった。それまで他人だった人に名前を覚えてもらうというのはそれだけでなんだか良いことだ。なんだか気が合いそうな人なら尚更。
「そうですね〜。多分、今日、このレストランを予約したのって、このウッドデッキと夜風のためなんじゃないかって思います」
「ははは、店内じゃなくて?」
「はい、お料理でもなくて」
「お料理は美味しかったよ」
「あ、そうですね。言いすぎました。じゃあ、お料理は『込み』で」
「はは。自分の間違いを認められるのは、大人の女性の証だね。素敵なことだ」
そう言って三城さんは人懐っこく笑った。
「えー、いいですよ〜。私なんてお子様ですから。大人の女性っていうのは……そうですね、あの人みたいな?」
振り返り店内をそっと指差す。三城さんが離れた座席の前で先輩の彼女が手持ち無沙汰に座っている。ロンググラスのカクテルを指で摘んで傾けてから、スマートフォンを取り出して何かカタカタと叩いている。
「彼女は大人なんかじゃないよ。『色っぽい』とは言うのかもしれないけどね」
「そうなんですか? 大人っぽいな〜って思いましたけど。……ていうか、猛アタックされていたようにお見受けしましたけれど。どうなんですか? やぶさかでもない?」
「あー、やっぱり。そうだよねぇ。そうなのかなぁ、と思ったんだけれど。困ったなぁ〜」
「あれ? そこ、困っちゃうんですか? かなり綺麗な人だと思いますけれど?」
「まぁ、そうだよね。綺麗な人だと思う。……西宮さんは彼女と自分の波長って合うと思う?」
「それは、……すみません。わかんないです。どっちかっていうと……苦手かな?」
そう言って舌を出すと、三城さんは可笑しそうに笑った。
「やっぱり、西宮さんって面白いね! 素直だ」
「あ〜、やっぱり子供っぽいって思ったでしょ! いいんですよ。私はお子様ですから。男友達からもずっと男子扱いだったし」
「――それって、巽くんのこと?」
「――え?」
「好きなんでしょ? 巽陽介のこと?」
突然踏み込まれたその一歩に、ウッドデッキの私は硬直した。
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