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「初対面の僕に、そんな告白しちゃってよかったの?」
三城さんは心配そうに眉を寄せる。
「いいんです。……きっと誰かに聞いてほしかったんだと思います。それに、三城さんって何だか信用できそうだし」
「ははは。ありがとう。……でも、それは結構しんどいよね。二人が別れてくれるのを願うっていうのも、何だか違うし」
「ですよねー。白馬の王子様は別にいると信じて待つことですかねー?」
「そうだねー。神様もそこまで意地悪じゃないと信じたいよね〜」
そう言って私の方を向いて微笑む三城さんの視線を私は受け止めた。そして改めて思う。綺麗な人だなぁって。なんだか男の人って感じがしない。
なんだか中性的なのだ。そんな彼の顔が気になってじっと見ていると、ふと気付いた。
「――もしかして、三城さん、お化粧しています? それにそのシャツも……女性もの?」
襟元のボタンで、右側が上になっていた。
「あ……、気付いちゃった? そうだよね。わかっちゃうよね」
ちょっと気まずそうに首筋を掻く三城さん。
「いや、まぁ、お化粧もうっすらって感じなんで、よく見ないと分からないと思いますけれど……」
「あはは。でも気づかれちゃったからには、僕もカミングアウトしちゃおうかなぁ。なんだか西宮さんの秘密だけ一方的に知るのもフェアじゃない気がするし」
そう言うと三城さんは一呼吸を置いた。
「合コンに来ておきながら何なんだけどさ。僕は自分が男の心を持っているのか、女の心を持っているのか、わからないんだ」
一瞬なんのことが分からなかった。でも少し考えて、以前聞いたことのある言葉に行き当たる。
「……性同一性障害――GID?」
その言葉を口にすると、三城さんは困ったように首を左右に振った。
「自分でも分からないんだ。GIDっていう確信もないし、だからって男性らしい男性であることに違和感が無いわけじゃない。女性の服を着たいし、お化粧もしたいし、綺麗でいたい。友人関係は女の子と話しているほうが気楽だし――」
私は今まで男勝りで生きていたけれど、自分の性別に違和感を持ったことはなかった。でも、世の中に自分の性別自体に馴染めない人もいるのだ。話に聞いたことはあったけれど、目の前でそうと言われたのは初めてだった。
でも何だか、それはとても腑に落ちた。テレビやネットで見てきたGIDの話はどこか遠くの出来事で構えてしまった。触れてはいけない出来事のように。でも、目の前の三城さんは、とても自然で、それが三城さんという人間の個性なんだと、どこかで自然に受け入れられるのだ。
「GIDかどうか迷っていたりしていて、自分でも分からない人のことを今はクエスチョニングって言うらしいけどね。僕は多分、今、それ」
「そっかー。でも、それじゃあ、どうして合コンなんて来ているんですか?」
「まぁ、巽くんに声掛けられて、人数合わせっていうのが実際だれど。単純に『友達探し』かな? 性別に関わらず仲良くなれる人がいたらいいなーって」
「あはは! なにそれ? 小学生みたい!」
声を上げて笑う。なんだかそんな感じで陽気でいたかった。
「だよね〜。でも、二宮さんだって、本気で恋人を探しに来たわけじゃないんでしょ?」
「ううっ……!」
図星だ。むしろ結局のところ、摩耶に気兼ねせず陽介と一緒に遊べる時間が嬉しくて、今日の合コンを楽しみにしていたのだ。きっと三城さんはそんなこともお見通しなのだ。
「ふふふ。巽くんにニキビのこと指摘されていた時の西宮さん、なんか可哀想だったけれど、すごく可愛かったよ」
「もー、なんなんですか〜! 気にしているんだから言わないでくださいよぉ〜」
思わず両手でおでこを覆う。「ゴメンゴメン」と言いながら三城さんは綺麗な横顔で夜の川岸を向こうに眺めた。
「――きっとクレンジングオイルかファンデーションが合ってないんだよ」
「あれ? 三城さん、そういうこと詳しい人なですか?」
「まーねー。だって、僕とか普通の女の子みたいに女性ホルモンの助けを借りない状態でスキンケアとかいろいろやっていかないといけないんだよ? 僕からすれば女性ホルモンを持っている君たちはみんなチート! そりゃ、頑張って詳しくもなるよ」
そんなことを冗談っぽく言う三城さんがなんだか可笑しかった。
「あ、じゃあ、私にいろいろお化粧とかスキンケアのこと教えてくださいよ! 友達として!」
「――僕でよかったら喜んで」
そう言って三城さんは屈託なく笑った。
ウッドデッキに吹く夜風は気持ちよくて、空には都会では珍しく星々が見えた。
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