ずっと好きでも、綺麗でも!

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「あ〜、ニキビだ〜。お姉ちゃん可哀想!」 「うるさいよ!」  洗面台の鏡で顔を洗った後に化粧水をつけていると、後ろから妹の麻耶(まや)が声をかけてくる。まだ麻耶はパジャマ姿。大学生の朝は呑気なもので羨ましい。と言っても私もほんの一年前まではそういう呑気なご身分だったのだけれど。今じゃ立派な企業戦士――もとい社畜? ブヒブヒ。 「この年になってニキビってあんまり無いんじゃないの? お姉ちゃん日頃からスキンケアしなさすぎ〜」 「だから、うるさいってば! 麻耶は私のお母さん?」 「妹だよ〜。お嫁にいけなくなるかもしれないお姉ちゃんの未来を心配する心優しい妹」 「……ちょっと私、そこそこ急いでいるから、あっち行っておいてくれる?」 「は〜い」  洗面所の入り口から顔を覗かせていた麻耶はつまらなそうにキッチンの方へと引っ込んでいった。  それにしても、なぜ妹という生き物はああやって人の気にしているところにグサグサと突き刺してくるのか。あ……もしかしてウチだけ?  乳液をつけて、ヘッドバンドを外して軽く櫛を通して一旦終了。ファンデーションとかホニャララは一旦後回し。本当にお化粧にかかる時間は私たちの苦労だよねって思う。男性陣はこの大変さをもう少し分って欲しいものだ。  まぁ、女子力の高い女性陣からすれば「え? 何言ってんの?」って感じかもだけど。お化粧苦手勢で社会人デビューした私みたいなのからすると、朝のケアとメイクの負担は未だに慣れないわけで。 「お姉ちゃん、アップルパイとライ麦パンだけど、私、アップルパイ食べて良い?」 「ん〜、良いよ〜。好きな方どうぞ〜」 「は〜い」  朝からアップルパイとかカロリー気にしなくて良い勢は凄いなぁ。  かくいう私も大学生までは適当していました。私の大学生時代は化粧にも気をつけず、カロリーも適当で、ちょっとだけぽっちゃりで、結果的に周りの男性陣にも男友達と同等に扱われて、女性扱いされなかったタイプなのだ。あ、友達は多かったので、「中性的な魅力に溢れていた」ってやつですかね。あはははは(汗)。  それに引き換え、妹は何もしなくても太らないタイプで、お肌も艶々。世の中って不公平だよね。  私、二宮杏耶(にのみやあや)は、そんな世知辛さを日々感じる社会人一年生なのである。  働きだしてからは先輩にも何度か説教されつつ、スキンケアとお化粧はするようになって、ちょっとは女性らしくしている。  それにしても仕事に女性としての美容を求める社会はマジでガッデムだ。別に女性を売りにしたいわけでもなんでもないんだけどなぁ。ジェンダーフリー万歳。  しかし、そんな私の努力を見ておきながら、嗚呼神様、なぜにあなたは「おでこニキビ」ちゃんを私にお与えになられたのですか? 「今日だよね? お姉ちゃん、陽介と一緒に企画している合コンって?」  キッチンでライ麦パンをトーストして、超高速でベーコンエッグを焼いて、温かいミルクティーとともに食卓へ運ぶと、アップルパイの皮を口周りに付けた麻耶が顔を上げた。  ていうか妹よ。なんでその状態で可愛いのよ。反則じゃない? 「そうね〜。だから今日はそれなりに気合い入れていかないといけないから、余計に朝余裕ないのよ。わかる?」 「はいはい。ていうか、お姉ちゃんお化粧するの遅いのよ。あといちいち買っている化粧品がコスパ悪い感じするし、……やっぱり私が教えてあげようか?」 「ケッコウデス!」  ケッコウ、ケッコウ、コケコッコー!(家畜)  なんだかそれだけは姉としてのプライドが許さないのだ。いや、別に今更プライドも何も無いのだけれど。なんなんでしょうね。よくわかんない。  妹の麻耶はプチプラの化粧品とか上手く使って安くあげているんだよね。私もそういう器用さやセンスがあれば良いと思う。……まぁ、妹が可愛いのは素が良いからだけではとも思うのだけどね。 「それから、合コン。陽介に変な虫がつかないように気をつけてよね〜」 「はいはい。ていうか、そんなの陽介に直接言ったらいいじゃない。私なんかに言わないでさ」 「それは言っているわよ。でも、お姉ちゃんも気をつけてくれたって良いでしょ〜。 ダブルチェックって言うの?」  ダブルチェックの意味が違う。頑張れ、妹。 「--それに、そもそもお姉ちゃんが独り身じゃなかったら、今日の合コンだって陽介が企画することとか無かったんだろうしさ! そのくらいの責務は果たしてよね〜」 「--はいはい。分ったわよ」  そう言われると「ウググググッ!」てなるけれど、反論しがたいものもある。  今日の合コンは何も私が無理に開いて貰ったわけじゃないのだ。そもそもは私の先輩が「出会いが無さすぎるー! あんたたち誰か合コンセッティングしなさいよ!」と無茶振りをしてきたことがきっかけなのだが。なぜか回り回って、私と高校時代からの友人――巽陽介で合コンをセッティングすることになってしまったのだ  巽陽介(たつみようすけ)は私の高校時代からの友人で、もう三年ほど妹の彼氏もやっている。私とは、なんだろうなぁ、腐れ縁って感じだろうか。 「じゃあ、行ってくるからね! きっと晩は遅くなると思うからちゃんと鍵かけて寝るのよ!」  朝食を頂いて、手早くお化粧を済ませて、身支度を整える。 「なにそれ、お母さんじゃないんだから! 分ってるわよ。いってらっしゃ〜い。……あ、なんなら朝帰りになっても良いからね〜」 「ならないから! ほんとうるさいよ!」  そう言いながらバタンと玄関を閉めた。  いや、本当に怒っているわけじゃないんだけれどね。うちの姉妹はいつもこんな感じだ。  それでも麻耶の言葉が引っかかる。「朝帰り」。出会った日にそんな関係になるなんてやっぱり考えられないけれど、そんなくらいになる出会いがあればいいなとも思うのだ。いざ出陣。  ☆
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