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「誕生日のお祝いに、月を間近で見せてあげるのはどう?」
「……うーん、まあそれもね」
こちらも同じく、妻に対してやった手だ。
件のUFOでもって、仕事帰りの妻をかっさらい、月まで飛んでその場でチョコレートケーキを食べてお祝いをやった。
クレーターを模した凹凸をつけた、手作りケーキの評判はいまいちだったけれど、一生に残るプレゼントだと喜んでくれたのを覚えている。
しかし、やはり今は時代が違うし時期もまずい。
UFOでもって地球人をかっさらうにも、申請が必要だ。
目的、時間帯、証拠のもみ消し方などなど。
地球より進んだ文明を持っている星が多いとはいえ、宇宙人は万能ではない。
万が一を考えれば、できれば大道具を使わずに証明したいところだ。
「いっそ、里帰りするのはどう? もうしばらく帰ってないでしょ」
「いや、だから大がかりなやつはまずいってば」
私の両親は東北地方に住んでいることになっているのだけれど、実際は一年の大半を遠く離れた星で過ごしている。
仮住まいである東北ではなく、星にいっしょに帰れば、否応なく信じざるを得ないのは間違いない。
しかし今は、何度も言うようだけれど、時代が違うし時期もまずい。
星への里帰りに、地球人やハーフを連れていくには、膨大な手続きが必要だ。
昨今の地球の状況を受け、星へいったん戻りたいという要望も増えているので、すぐに予約が取れるかどうかも怪しい。
頭を抱える私は、楽観的に珈琲をすする妻とのやり取りを繰り返し、結局、ちょうどよい打開策が見つからないまま、悶々と過ごすばかりだった。
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