父の悩み

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父の悩み

 父さんな、実は宇宙人なんだ。  そうなんだ、病院行ってくれば。  週末にかわした親子の会話はこれだけだ。  私のことを心配してくれる娘の心温まる一言、などと解釈できるはずもない。  目も合わせず、溜め息混じりに辛辣な一撃をいただいた。  完全に頭がおかしくなったと思われているに違いない。 「あなたってそういうところ、昔っからだよね」  頬杖をついて苦笑いすると、妻は温くなった珈琲を一息に飲み干した。 「あの子も今年で十八だ。そろそろ打ち明けなくちゃと思ったんだよ」 「まあうん。わかるけど、ここ地球だし、宇宙人ってまだまだ立派なゴシップだからさ」  新しいの淹れてくる。  席を立った妻を見送って、肩を落とした。  それでは、どうすればよかったのだ。  私が宇宙人であることは間違いのない事実だし、ハーフである娘にも当然、地球外の血が流れている。  体内組成の変わる二十歳までに、事実をしっかりと伝え、然るべき暮らし方を学ばなくては、地球での生活は大変やりづらいものになるだろう。  まずもって、通常の地球人が受ける健康診断なるものを受診することはできない。  というより、血液検査がもう駄目だ。  未知の成分てんこ盛りで、たちまち大騒ぎになるのが目に見えている。  検査結果という形で事実を突きつけられれば、さしもの娘も信じざるを得ない。  いわゆるショック療法にはなってしまうが、最終手段としてはありだろう。  ただし、これにかかる負担は莫大であるし、もみ消すにも伝手がいる。あくまでも最終手段としたい。
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