君は父親に似ているって、女神ウルドは言った。

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 腰に手を当てて肘を立てて。白銀色の長い髪をなびかせて。  遠くからも目を引いたのはその髪の色だった。海外の人なのかなぁと思ったけれど、褐色の肌とその話し方はそうでもないようだと告げていた。  それにしても、この一瞬で、どうやって向こうのホームからこっちのホームに移動してきたのだろう? 走って階段を降りて階段を駆け上がれば、可能性はあるかもしれないけれど、その女性は息ひとつ乱していなかった。  靴もスニーカーではなくて、踵の高めなパンプスだ。 「……え、えっと。……すみません、えっと」 「ふふん! 『どうして、この人はこんな一瞬でホームを移動してこれたのか?』って考えているだろう?」  自慢気な腕組み。「全てお見通しさ!」と言わんばかりに。 「あ……はい。……それに」 「ふふふっ! 『自分にこんな綺麗な女性の知り合いはいただろうか?』って思っているだろう? 童貞!」 「あ、いや……はい」  綺麗だと口にするつもりはなかったけれど、綺麗だと思っていたのは本当なので、否定もしにくい。  なお最後の童貞はどう考えても余計な一言であるが、残念ながら事実である。水上道哉は童貞である。童貞は悪いことじゃない。 「ふふふ、君の考えていることなど、全てお見通しさ!」  今度はもう自分で言った。流石の不審者っぷりに水上道哉は眉をひそめる。  こんな知り合いが自分にいただろうか。いや、居ない。居たら流石に覚えている筈だ。なんと言っても彼女の頭の上には―― 「まったく、運命の分かれ道に居るというのに、随分と腑抜けた顔だな。水上道哉青年」 「なんで僕の名前を……? えっと……誰なんですか?」  青年がそう言うと、その女性はニヤリと笑う。 「ふっふっふ。私は時と運命を司る女神――ウルド様さ!」  そう言ってスタイルの良い女性は背中に羽織ったマントをばさりと広げるようなポーズをとった。なお、マントは羽織っていないので、緑色のカーディガンのみが揺れる。 「――女神様?」 「ふふふ。驚いただろう、青年。時を超えてやってきた、女神ウルドさまが君の全苦悩に女神力介入しにきたぞ! 世界線を変えるのだ!」  休日に友人とカフェにでも行きそうないでたちの女性が中二病全開な台詞を放つ。普通ならドン引きするところであるが、道哉はなんとなく、そんな彼女の言葉を完全に無視する気にはなれなかった。  だって彼女の頭の上には白く輝く光の輪が浮かんでいたから。  流石にそんなもの、生まれてから見たことがなかった。  あと、きっと確かに自分が運命の分かれ道に居るとは思うのだ。 「だから君の願い事を叶えてあげよう!」  水上道哉は、だから、彼女の言葉を信じることにした。  少なくとも京都行きの湖西線新快速が到着するまでの十分間だけ。   ※
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