君は父親に似ているって、女神ウルドは言った。

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 大学に入ってから僕は(きし)絵里(えり)のことが好きになった。初め彼女とは共通の友達を通して知り合った。彼女は吹奏楽のサークルに入っていてホルンを吹いていた。高校時代に同じ吹奏楽部だった友人がそのサークルに入っていて、彼を通じて知り合うことになったのだ。ほとんど一目惚れ。でも、自分自身はサークルに所属している訳でもなかったから、親しくなっていくきっかけもなければ、一緒に取り組む青春のサークル活動も無かった。本当は彼女目当てにその吹奏楽サークルに入ろうかとも思ったのだけれど、トロンボーンへの情熱はもう高校時代で燃え尽きていて、僕の重い腰は上がらなかった。  それに色恋の欲望をモチベーションに音楽を続けることは音楽にも彼女にも失礼だと思ったし。  だから関係を進展させるきっかけは多くなかった。それでも共通の友人と一緒に飲み会をしたり、吹奏楽の定期演奏会に足を運んだりして、僕と彼女は友達と呼べる程度の関係にはなっていった。でもそこから先は全然遠くて、吹奏楽部のコミュニティの周りに張り巡らされた分厚い防壁の前に、僕は完全な部外者だった。だから岸絵里のキャンパスライフにとって、僕という存在がどれほどの意味を持っていたかは分からない。でも、ずっと好きだった。  やがて彼女は吹奏楽サークルの先輩と付き合いだした。  ※
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