君は父親に似ているって、女神ウルドは言った。

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 それからも僕は彼女と友達であり続けた。彼女が打ち込むサークル活動の外側に居て、時々会っては話を聞く友人。そんな立ち位置にはなれたのだと思う。彼女のサークルでの悩みを理解してあげられるっていう程度には高校時代の吹奏楽経験が役に立ったんじゃないかな。  やがて四回生になって、サークルも引退して、大学の勉強はゼミ中心になっていった。就職活動も忙しくなった。僕らはその間ずっと友達であり続けた。  僕はせめてその関係を一生ものにしたかった。彼氏になれなくても、彼女はこの世界で僕が一番大切だと思う存在だった。彼女が幸せでいてくれればそれで良かった。  でも、そんな僕の願いに反して、世界は必ずしも彼女に優しくはなかったのだ。  就職して東京で働きだした先輩は彼女とは別に女性を作っていた。彼女は知らない間に二股をかけられていたのだ。それに気付いてからの彼氏と別れるまで一年間、彼女はやりたくもない駆け引きに疲弊していった。最後には彼女から別れたのだと言うけれど、詳細は僕の知るところではない。  悪いことは重なるもので、先週、彼女の一人暮らしのマンションに空き巣が入った。さらにストレスからか高校時代まで抱えていた彼女の心臓病が再発し、突然、彼女は福井の実家へと帰って、引きこもってしまったのだ。  ※
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