君は父親に似ているって、女神ウルドは言った。

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「全部ハッピーになる未来を準備してくれるてほど、女神様は運命の大安売りをしないんですね?」 「生憎運命っていろんな人間の相互作用で出来上がる代物だからね。あと物質を支配する力学に逆らうこともできないワケ。だから私にできるのは選択肢にちょっとばかりの影響を与えるくらいさ。線路のポイントを切り替えるみたいにね。――まぁ、ちょっと未来で相談を受けて、この瞬間の君にアドバイスだけしに来たってわけさ」  ガタンゴトン――ガタンゴトン――。  やがて列車が山科駅へと滑り込んでくる。  それはX世界線へと繋がる電車なのだと女神は言う。  それを信じるかどうか。そもそもこの女性が女神様なのだと信じるかどうか。そして、まだ見ぬ未来の可能性を信じるかどうか。 『山科〜、山科〜。新快速京都行き〜。足元に気をつけてお降り下さい〜。お降りの方を優先して――』  タイムアップだ。決めなければならない。  道哉はショルダーバッグを肩に掛け直し、花束を持つ左手に力を入れた。  そんなエネルギーが紫陽花とカラーにも伝って、二つの花も顔を上げる。 「ありがとう、ウルド様。――僕はそれでも福井に行くよ。彼女の顔を見たいから。今辛い彼女を勇気づけたいから。それで彼女と一緒になれて、子供も授かれるなんて、――そんなに素晴らしい未来はないよ」 「でもその結果、君は命を失うんだぜ? 君がいない未来で、彼女は一人で生きていかないといけない。それでも良いのかい? それで君は彼女を幸せにすることになるのかい?」  アナウンスが乗車を急き立てる。道哉は一歩、足を踏み出した。 「僕の命なんて関係ないよ。それに僕が死んだ後、彼女は一人じゃないんでしょ? 僕らには子供が出来るって。もちろん僕も死なないように努力する。たとえ小さな可能性でも運命に抗えるなら。彼女と自分と子供の未来のために全力を尽くすよ。――でも、それでも僕が死んでしまった時には、僕の子供に託すよ。……もし女神様が未来で、僕の長男に会えるなら伝えて欲しい。僕の代わりにお母さんをよろしくって。きっと僕の子供なら彼女の――お母さんのことを、大好きな筈だから」  道哉は電車の中で振り返って、そう言った。  ウルドは見送るみたいに向き合って立つ。 「――勝手な父親だな」 「僕の名前はさ、死んだ父親がつけてくれたらしいんだ。迷った時は信じた道を行けって。――それがお前の道なりってね。ありがとう女神様、行ってくるよ。僕の道――X世界線へ。……もしもの時は、未来の息子によろしく!」  そして電車の自動扉が閉まった。  ガタンゴトン――ガタンゴトン――。  再び電車は動き出す。  未来は分岐し、選択され、やがて時間発展の非線形ダイナミクスが未来を駆動する。超高自由度のアトラクタはやがていくつもの収束点を経て、バタフライ効果とリアプノフ安定性を共存させながら、人々の運命を紡いでいく。 「……だってさ。一本気な父親じゃないか、水上(みずがみ)優人(ゆうと)くん?」 「ほんと、勝手ですよね」  振り返った女神ウルドへと、ベンチに座っていた僕が返す。  パンプスをプラットホームの地面に下ろしながら、彼女は僕の隣に腰を下ろした。黒いスキニーレギンスの細い脚を組んで、頭上に光輪を光らせながら。
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