モドリカ

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 高校三年生の夏。私、木内咲の初恋は――。  校舎二階の女子トイレ。私の放課後の指定席。  鏡はいつも現実を突きつける。顔に触れなくても分かる。私の肌は、綺麗じゃない。赤く凹凸のある肌に、それを隠すために長く伸びた髪の毛。  眼鏡を外せば、この現実もぼやけて見えなくなってくれるだろうか。  ため息をつきながらトイレから出ると、校庭から部活動に励む生徒の声が聞こえる。サッカー部だ。 「……はあ」  二階の廊下から見下ろす。目線は一人にしか向かない。同じクラスで、サッカー部副キャプテンの宮野君。教室に居る時も、目で追ってしまう。  引っ込み思案の私にも優しく話しかけてくれた。  ちょろい女だって自分でも分かってるけど「ぶつぶつお化け」とか、「ニキビ女」とか言われ続けた私には、優しく話しかけてくれただけでも、特別なんだ。  治そうとしても、どうしていいか分からなくて、悪化したこともあった。 「……ニキビなんか無かったら」  誰にも聞こえないように呟きながら、駐輪場から自転車をとり、校門まで押した。    休憩中だろうか、宮野君とマネージャーの一人が水道の前で話している。  宮野君は濡れた髪をタオルで拭いていた。  もうかっこよすぎる。  思わず隠れる。 「宮野君って、好きな子いないの?」  一緒にいるマネージャーが訊ねた。 「んー」 「あの人は、ほらあの宮野君と同じクラスの髪の長い眼鏡の」  私のことだっ。  自分のことが話題に出てきて心臓が少し跳ねた。 「ああ、木内さんか」 「そうそう、あの人ずっと宮野君のこと見てるよね」  私は恥ずかしさのあまり顔を押さえてその場にしゃがんだ。 「あんまり顔覚えてない」  ……え。 「宮野君ひどーい。まあ、髪の毛で顔隠してるしね。あーでも、私前に顔ちゃんと見たことあるんだけど、肌がすごい汚かった」 「……そーなんだ」  ケタケタと笑うマネージャーと興味なさそうに返事をする宮野君。  二人が校庭に戻った後も私は後悔と恥ずかしさで、そのまましばらくうずくまって肩を震わせていた。 「……こんな顔、嫌い」     高校三年生の夏。私、木内咲の初恋はこうして終わった。
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