1話 食堂のお姫様

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1話 食堂のお姫様

朧げな意識の中誰かが私を呼んでいる。 「なる〜。なるー?なるったら起きて!昼休み終わっちゃうよ。」 「はっ!ほんとだ。今日お弁当持ってくるの忘れちゃったのよね。美沙ちゃん食堂で食べない?」 「食堂って、ウチら行っても食べれないよ〜。あそこヤンキーいっぱいいるじゃん。私のお弁当分けてあげるから教室で食べようよ。」 「大丈夫!私に任せなさーい!」 嫌そうにするみさちゃんの手を引いて私は廊下を駆け抜け食堂に向かった。 おっと自己紹介がまだでした。私の名前は天神鳴海。天神と書いてあまがみと読みます。頭のいい皆さんなら余裕でわかりますね。つい先週に入学したピカピカの高校1年生であります。私の通う高校はこの辺の学区じゃ最底辺の偏差値を誇る矢巾城南高校。通称ヤン高と呼ばれてます。名前の通りヤンキーと言いますか不良と言いますかそういった人達がたくさんいます。男女比率が9対1ぐらいでほぼ男子校見たいなものです。えっ?そんな所にいたら女の子は危ないんじゃないかって?大丈夫なんです。その理由を今からお教えします! あと今、私が手を引いてるこの子が高校で出来た友達の赤松美沙ちゃん。栗色の髪の毛にぱっちりした目、濃くないメイクと黄色のカーディガンが特徴で身長は150cm台のかわいい系の美少女です! 「着いたー!たのも〜!」 食堂のドアを勢いよく開けた。その瞬間中にいた全ての男子生徒が鳴海達に視線を向けた。 「なるのおバカ!私この学校で大人しく学校生活送りたかったのに〜。」 美沙は息切れと相まって学校生活に終焉を迎えた見たいな顔をして泣きそうになっている。 そんな美沙を強引に引っ張り中に入っていった。 「大丈夫だって。私がいれば大丈夫だから。安心して。」 「ひぃー全員から見られてるよお。」 美沙は鳴海の背中にくっついて鳴海が引きずりながら歩いている。 「美沙ちゃんここの食堂はね、ちょっとした特徴があるの。席に座っている人を見て。」 「目が合ったら殺されるよぉー。」 「大丈夫だから。ほーら。」 「う〜。何だか窓側に座ってる人達の方が大人しそうな人が多い気がする。」 「そうなの、ここは真ん中にいくほどヤンキー度が高い人が座るの!ちょっとした格差社会見たいなものね。しかもヤンキー度が高い人は1人でたくさんの席をとったりして席を占領するの。だからね真ん中のテーブルを陣取ってる人がここでは1番強いのよ!」 「なる。ヤンキー度ってなに?」 「うーん私もよくわかんない。とりあえず注文しましょ。」 鳴海はカレーかうどんで悩んだ末にカレーを選び食堂のおばちゃんからカレーを受け取った。 「でもなるー、外側の席空いてないよ?」 「大丈夫だよ。私達はど真ん中に座るんだから。」 「あーそっかー。ど真ん中があったかー。っておい!さっきの話しだと真ん中にはヤンキーが溜まってるんじゃ?」 「私がいるから大丈夫だって!心配しないで!」 2人はズカズカと真ん中の方の席を陣取ってるヤンキーの方へ進んでった。 「なる!絶対これやばいってめっちゃ見られてるよ!」 すると中心部分から少し離れたところで1人の男子に止められた。 「おい女!さっきから見てたがちと態度がデカくねぇーか?何様のつもりじゃボケ。痛い目見るぞこら!女やからって容赦せんけの。」 鋭い獣のような眼光を2人に向ける。 「ごべんなざいー。」 美沙だけが大きな声で謝って鳴海の背中で携帯のバイブ音みたいになって震えている。 鳴海はこの男に覚えがあった。 「あっ、あなた入学初日に暴行事件起こして停学だった野村くんじゃない?停学解けたんだー。おめでとー!じゃあ私達お昼まだだから、ばいばーい。」 鳴海は無視して進んでった。 「ふざけんじゃねー!なめすぎも大概にせいや!ゴラァ!」 野村が大きな声を出したため周りの喧騒がやみ全員の視線がこちらに向いた。 「こっから先は誰の場所かわかっとんか?天神さんの場所ぞ!女なんかがが天神さんの場所なんざいったら天神さんのなめられるやろがい!これ以上進むんなら覚悟せいや。」 鳴海の背中で美沙が失神している。 「あははっはっはっは。腹壊れる、ぐふふあははは。」 ヤンキー集団の中心部にいた1番偉そうな人が笑い始めるとその周りにいた数人もゲラゲラと笑い始めた。そして1番偉そうな人が立ち上がって言った。 「のむら?とか言ったお前?たしかこの前ケンカして負かしたやつだよな?」 「そうです。俺はあんたに負けたからあんたについていく決めたんです。俺はここの番長である天神さんに憧れた。だから俺を天神さんのチームに入れてください!お願いします!」 「だから俺はそんなチーム作った覚えねぇかっ」 「お兄!みーつけた!」 喋り終わる前に鳴海はこの学校の番長と呼ばれる男に飛びついた。 「ぐへぇっ、なる。お前威力強すぎ。カレーでる。おうぇっ」 嘔吐感で番長がえづいている。 「あー!やっぱりお兄もカレーだったんだ!気が合うねー!」 「はっ?お兄ってまさかこの女。…天神さんの妹かよ。うそだろ。もっもっ、申し訳ありませんでした!」 野村は真っ青になって鳴海に謝ってきた。 「やっぱり知らなかったんだ。私はヤン高の番長の天神遥斗の妹、天神鳴海よ覚えときなさい!」 まるで一国の王妃であるかのような振る舞いだった。お姫様を意識しているのか訳のわからない高笑いをして周りが引いている。 「なるもあんまり調子乗ってっとどっかでしめられっぞ?」 「その時はお兄に助け求めるもん!」 「っっ!しっしかたねぇな。いつでも助けに行ってやるよ。」 遥斗はデレデレだった。周りが引いていることをこの兄妹は知らない。 「相変わらずのブラコンっぷりだね鳴海ちゃん。」 1人の男が鳴海に話しかけた。 「あっ天草さん!お久しぶりです!お元気そうでなによりです。」 「まさか鳴海ちゃんがこんな高校に来るなんて思わなかったよ。よっぽど遥斗のこと好きなんだね。」 「お兄は私がいないとダメダメですから。それとちょっと天草さん、相談が。」 鳴海が小さな声で遥斗に聞こえないように天草に問うた。 「お兄に彼女とかっていないですよね?正直にお願いします。」 天草は腹を抱えて笑い始めた。 「いないいない。こいつと対等に会話する事ができる女の子は鳴海ちゃんだけだと俺は思うね。」 「よかったー。もし居たのならお兄を殺してしまうところでした。」 「それは怖いねぇ、あはははは。」 全然笑えないんだけど。目がガチだよ鳴海ちゃん。 「2人で何こそこそやってんだ? 」 「心配すんな遥斗。鳴海ちゃんとお前は相思相愛だ。」 「はぁ?どゆこと?」 言っている意味が分からないといった顔をしていた。 「なる。ここで飯食っていいぞ。席ならたくさんあるから。」 遥斗は席を立った。それと反対に鳴海は席に座った。 「じゃあお兄ちゃんは食後の運動してくるから。」 しかし鳴海は遥斗の服を掴んで離そうとしない。 「なるー。寂しいのはわかるけどお兄ちゃんだって忙しいんだ。」 「私、お兄と食べたかったから食堂来たの!」 鳴海は頬を膨らませカマッテヨと目で訴えた。 「友達と食べにきたんじゃねーのか?」 「あっ、なんか背中重いと思ったら美沙ちゃんのこと忘れてた。」 「それは酷いぞ。なる。仕方ないからあと少しここにいるよ。」 鳴海のテーブルを挟んで目の前の席に座った。 鳴海は美沙を背中から離して席に座らせ肩を揺らした。 「美沙ちゃん、起きーて。美沙ちゃん。」 うめき声を出しながら美沙を目を覚ました。 「ばぁっ、なんだ夢かー。さっき超怖い夢見た。ヤンキーな人達に囲まれる夢見たんだよね。いやー人生終わったかと思ったよー。」 美沙は鳴海の顔しか見えてなかった。 「お腹すいたし早く食べよっか!」 鳴海が席に座ると視界がクリアになる。 「そうだね…。なる。ウチまだ夢見てるかもしれない。」 「えっ、なんでー?起きてんじゃん。」 口にカレーをほおばりながら返答した。 「だって周りヤンキーっぽい人だらけだし目の前にこの学校の番長いるし。」 「あーこの人は、私のお兄ちゃん。かっこいいでしょ?」 まだ口をもぐもぐしながら喋っている。 「あっ、そうなんだー。お兄ちゃんなんだ。」 そう言って弁当を広げたところで美沙は耳を疑った。 「はっ?なるもっかい言って。正直に。」 「だからー、目の前にいる人はお兄ちゃんなんだって。」 美沙は驚きの形相になって遥斗に視線を向かわせた。 「えーー!!なるが番長の妹!?よく見たら似てるかも。ちょっとくせっ毛な所とか目元とか一緒だ!ちょっとチラつく八重歯も超かわいいし。なるも相当な美人だし兄もイケメンなんて親御さんモデルやってるの?めちゃくちゃかっこいいじゃん!」 イケメンを見て興奮したのか頬が少し朱色に染まっている。 「いやー、普通のパン屋さんだよ。」 「あっだからいつも美味しそうな匂いしてたんだ。」 「それより美沙ちゃん。」 とびっきりの笑顔で鳴海は言った。 「私のお兄ちゃんに手を出したら、美沙ちゃんでも許さないからね。」 言葉と表情がマッチしてないとはこの事を言うのだろう。見えない圧が覆いかかりそうだ。 「うんわかった、わかったからその顔やめて。怖すぎるから。」 美沙は鳴海をしっぽを踏んでしまった猫のようになだめる。 「でも隣の金髪刈り上げの人なら全然おっけーだよ。お兄のひっつき虫みたいなものだから。もぐもぐ。」 「ちょっと鳴海ちゃん。俺の扱い酷すぎない?」 横からから天草が会話に入ってきた。 きっとまた美沙の中のイケメンセンサー的なものが反応したのだろう。目が天草にくぎ付けだ。 「いきなり話割ってごめんね。俺は天草和人。鳴海ちゃんの相手をするのは骨が折れそうだね。これからよろしく。」 美沙は天草の名前を聞いた瞬間に表情が固まる。なんだか少し汗ばんでいるように見えた。 「あのー、もしかしてここら辺を取り仕切ってるヤクザ天草会の会長の息子さんでいらっしゃいますか?」 心做しか喋る時のトーンがかしこまっている。天草は驚きの表情を浮かべた。 「よくわかったね。あんまり世間一般に言える仕事じゃないけど面倒見のいい親だよ。だからあんまり悪く思わないでくれたら助かる。」 天草和人はハニカミみ、その笑顔を直視した美沙はイメージしてたヤクザの息子とのギャップに心を撃ち抜かれた。 幸せそうな顔でにやけている。 「はい。わかりかりました。」 「かりかりましたて、ぶぁは、ははははははは。」 遥斗が耐えれず笑いだす。それを見かねた鳴海が遥斗に物申した。 「こら、お兄。私の友達をバカにしないで。緊張したらたまに噛む癖がある所もかわいいでしょ。」 「あーかわいいかわいい。なるの次にな。」 「もうお兄ったら、私の扱いわかってるねー。はいアーン。」 カレーを遥斗に食べさせる。はたから見るとただのバカップルだった。そして何よりも食べるスピードが尋常じゃなく早かった。 天草が周りの空気の重さに危機感を感じて割って入った。 「イチャイチャは家でやってもらっていいかな?周りの人ドン引きしてるよ。 遥斗もこの学校の番長なんだから自覚持ちなよ。お前が舐められるとこの学校のパワーバランスが崩れてヤン校戦国時代がまた始まるぞ。」 遥斗は天草の言葉に対して鼻で笑って返した。 「別にいいぜ。また1人残らず潰せばいい話だ。」 さっきと違い殺伐とした締まった空気に変わっていく。遥斗のカリスマ性は思いのほか高い。 次の瞬間、1人の丸坊主の男子生徒が食堂のドアを勢いよく駆け込んできた。 全力で走ってきたのか息が切れている。 「天神さん!来ました。」 吠えるように言った。 「やっと来たか。」 天神遥斗と天草和人とが立ち上がると周りの人間も立ち上がった。さっきまでのホンワカした空気はもうどこにも存在しない。遥斗と天草を筆頭に食堂の外へ向かって歩いていく。 「お兄!気おつけてね。」 遥斗は振り向かずに返事した。 「おう。」 真ん中の集団が抜けたことによって食堂の中がなんだか広く感じられる。 物事についていけてない美沙だけがこの空気に馴染めてなかった。 「えっ、なになに?みんなでトイレに行ったの?確かに男子人数多いからトイレ混むけど。あの人数じゃ便器足んないでしょ。」 呆れた用に鳴海がため息を漏らす。 「教室に戻って校庭見たらわかるよ。」 美沙は何か悟ったかのように驚愕の顔でこう答えた。 「まさか!野グっ、っ!いたっ痛いよなる〜。」 言い終える前に美沙の口を勢いよく塞いだ。 「それ以上言ったら嫌いになるからね。私今カレー食べたの!」 「ごめんなさい。」 美沙は申し訳なさそうに謝った。 「それより早く教室に戻って見に行こう!お兄の勇姿が見られるから!」 なるは自分の欲求に正直というかわがままな所があるから疲れる。だけど悪いやつじゃないことくらい私にもわかるんだ。だから言えば伝わるはず! 「なる!実はわたしっ、」 「美沙ちゃん!時間やばいよ、教室戻ろ。昼休み終わっちゃう。」 途中で話を折られた。これには美沙も何も言えなかった。 「うん。そうだね戻ろっか。」 だけど多分。なるは、私がまだ昼ごはんを食べていない事を完全に忘れてる。
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