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五月のそよ風が新緑の香りを運び、坂下千空は松葉杖を家の玄関に置いて、ゆっくりと通りへ歩き出し、時々立ち止まって足の怪我の具合を確かめ、ジャンプしたりスキップしてみる。
「これなら、バスケやれそう」
スポーツバッグには体操着とボールも入っていたが、千空は慣れ親しむ体育館ではなく図書館へ向かっていた。
授業の休み時間に美沙子に調査状況を聞きに行っても「謎は図書館で解いてみせる」と、同じセリフを繰り返され、千空はそう言われる度に、きっと推理は難航していると思った。
自分でもタイトルと作家の名前をネットて調べてみたが、アマゾンでも街の書店では売ってないし、作家の名前すら存在しない。
図書館の玄関口へ行くと【本日は図書整理の為、休館日とします】と書いてあったが、受付に美沙子と読書倶楽部のメンバーが六人整列して千空を出迎えて手招きされる。
「ようこそ本のミステリーへ」
千空は一年生の男子生徒が六人読書倶楽部に入部した事は知っていた。以前、美沙子に頼まれて新入生の倶楽部勧誘に一緒に行った時、ファンだと言って握手を求めたオタクっぽい男子生徒たちである。
「美沙子。体育館より図書館を選んだんだ。楽しくてスッキリする推理ゲームを頼むぜ」
「もちろんです。千空、足治って良かったね。さー、こっち、奥のテーブルに着いてください。みんなも早くして」
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