狙撃手は突然に

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 何もやることがない状態が、私はどうにも苦手だった。  などと言うとあたかも働き者のようだが、そうではない。ただ、手持ち無沙汰が落ち着かないのだ。何か忘れているような、漠然とした不安が何となく付きまとい、気ばかりが急いてしまう。  大学が長期休暇に入って講義がなくなり、今日は実験もバイトもない。友達とも約束していない。  やらなければならない事が、ない。  私はやるべきことを探して、所在なく自分の部屋を出て、廊下を彷徨いながら、無駄に右往左往した。  うちは一階で写真館を営んでおり、父の死後は母親が切り盛りしている。ただもちろんスタッフはいるし、私には店の手伝いなど求められていない。  しかし、だからこそ、家の中には無数に仕事があった。特に一番下の妹はまだ中学生だ。  と、意気込んでダイニングに入ると、 「あ、お姉ちゃんも食べる?」 三姉妹の真ん中、春希から声を掛けられた。
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