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「ああ、あれか」
クニヒロの言葉で四月の初めのそのやりとりを思い出し、タカアキは頷いた。
また、授業が始まってからの学内でのチグサの態度は、その時にクニヒロが予想した通りのものだったらしい。そのことをトモヤスがクニヒロに報告していたことも思い出した。
「俺もあいつとは入学前にカザハヤで話をしていてな。そこで、学内で会っても当面挨拶もなにもなしにしようということにしているんだ。だからこそトモヤスがいてくれて助かる訳だが……」
「どうしてまた。兄弟同然の親戚なんだろう?」
「だからさ。どこでベーヌの連中が見ているかもしれないところで、あいつと親しく接してみてみろ。俺があいつとの伝手だと思った連中が押し寄せてくるだろう」
「それが鬱陶しいからか?」
たたみ込んだタカアキに、クニヒロはふんと鼻を鳴らした。
「俺だけのことだったら、適当にあしらうさ。けれどそんなことになったら、せっかく生まれて初めて自由に過ごすことが出来ているあいつに、不要に気を遣わせることになってしまう。だからあいつにも、学校では俺に声をかけてくるんじゃないぞと釘を刺したんだ。……まあ、それが俺があいつを気遣っているっていうのに他ならないことを、聡いあいつには丸わかりなもんだから、申し訳なさそうにされてしまったけどな」
ここまで言うとクニヒロは大きく息をつき、肩をすくめた。
「とはいえこの調子じゃ、そろそろユキさんから言われているもう一つのほうにも声をかけないといけないだろうなあ」
「……まだあるのか?」
「……あの人はハツキについては昔から万全を期す構えでことに当たるからな。ま、それより食べよう。昼飯が冷めちまう」
タカアキからの質問を打ち切るとクニヒロは食事を始めた。
タカアキも自分のトレイの昼食に手をつける。
王立学院大学の中央食堂のメニューは学生向けに値段が安い。全体的にヤウデン人のタカアキにはいささか味が濃いと感じられるものの、値段の割に味の良い食事が用意されていた。
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