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 彼はタカアキ達より二歳年下の、幼稚舎から王立学院に通う青年だった。  幼少時から学業の成績が極めて秀でていたとのことで、タカアキ達が大学に入学した頃、当時高等部の生徒であったのにもかかわらず、既に大学の授業を履修していた。  彼の受ける授業のいくつかが自分達と同じ教室だった。  長い金髪に少し着崩した制服、それがやけに様になる美貌。外見こそきらきらしく派手だが、学業に関しては非常に真面目で、彼の見た目や家柄に惑わされない相手にはきちんとした対応をする人柄。  幼い頃に家族でヤウデンに旅行にいったことや、彼の実家の家業がヤウデン国との貿易も行っていることから、ヤウデン系である自分達とも出会えば親しく話す仲だった。  彼の名はメールソー・テレーズ。  タカアキ達が三年生になった今年、彼も正式に大学部へ入学したのだが、新学期が始まってからは、専門が異なることもあって会う機会がなかった。  食堂での会話の後も、チグサを気にしつつ、クニヒロも自身の授業や課題に忙しく、テレーズと会えないままだったらしい。  だが四月(芽月)下旬のある日。  四限目の専攻の授業の後、帰宅のためにクニヒロと一緒に正門に向けて理工学部の敷地を歩いていたところ、理工学部研究棟から出てくるテレーズを偶然見かけた。 「あ」と小さく声を上げて、クニヒロはテレーズを追おうとした。  だが、そうするまでもなくテレーズも石畳を歩くこちらに気がついたらしい。若葉色の瞳の美貌に笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。 「お久しぶりです。タカアキさん、クニヒロさん」  タカアキ達も足を止めて彼に応じる。 「久しぶり。大学生になってからは初めてだな」 「よう!」クニヒロは手を伸ばすと、こちらより背の高いテレーズの頭を掻き回した。背を丸めてテレーズは笑う。 「立派な臙脂タイっぷりじゃないか! よく似合っているぞ」  そういうクニヒロも成績は上位である。今次は惜しくも逃しているが、二年の秋学期は臙脂(えんじ)のタイを締めていた。  臙脂のタイを持つ者には学院から学費免除の資格が与えられる。基金からの奨学金があるとはいえ、親の仕送りも受けながら留学しているタカアキは、一年の秋学期に臙脂のタイをするようになってからは意地でもその資格を守り抜いていた。
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