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 そんな自分達であるけれど、同じ臙脂(えんじ)のタイの成績上位者と言ってもテレーズは格が違っていた。  高等部時代から大学部の授業を受けていただけでなく、彼は入学したての一年生ながら既に研究室に所属もしているのだ。  研究棟から出てきたということは、今日も所属する航空工学研究室に顔を出していたのだろう。 「今日はもう帰りか?」  タカアキが訊くと、テレーズは「いえ」と苦笑して頭を掻いた。 「実は俺、今はグィノー先生の課題で人探しをしているんです」  彼が口にした意外な人物の名前にタカアキは一瞬思考が止まった。数度瞬きをし、それから気を取り直して訊き直す。 「グィノーとは……文学部のグィノー教授か?」  ヤウデンに旅行をした経験があるからだろう。  テレーズはヤウデンの歴史にも大変な興味を持っていて、高等部時代に一般教養のヤウデン史概説を履修するだけでなく、グィノーのヤウデン歴史・文化研究室にも足繁く通っていた。  だが彼は大学に進学後、理工学部を選択した。グィノーとは所属する学部が異なるし、さすがの彼でも学部が異なる専攻の授業を取る余裕はないと思う。  今の彼とグィノーとの接点が解らずにタカアキは首を捻ったが、どうもそれは自分だけだったらしい。  しかしこの時には、クニヒロが何かに期待する様子で黙ったことにタカアキは気づかなかった。  タカアキからの質問に、テレーズは気恥ずかしそうに笑った。 「今年入学した外部生にすごい美人がいたんです。取っつきの悪い人物だからやめておけと友人には言われたのですが、諦められなくて。その人も優秀で、新入生ながらグィノー先生の研究室に所属しているということも聞き出したので、グィノー先生の所へ行ったんです。昔の言葉でもあるでしょう? 将を射んと欲すればまず馬を射よってやつです」  これを聞いて、タカアキはテレーズが言う相手が誰なのか解ったような気がした。ちらりと横に目をやると、クニヒロの表情も嬉しげだ。  ああ、やはりと面白くなってくる。  テレーズは楽しそうに続けた。
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