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近くを歩いていた学生達が目を向けてきても気になどしない。
タカアキもクニヒロの気持ちが理解出来たので、つられて笑顔になった。テレーズが駆けて行った方向に再度目を向ける。
「思惑以上じゃないか」
「全くだ! あいつがあれだけ本気を出してくれているんだったら、ハツキなんか簡単に釣り上げてしまうだろうさ!」
「おそらくな。しかし……」
先程のテレーズとの会話の間で気づいたことに、言葉が澱む。
タカアキの歯切れの悪さに気づいたクニヒロは、笑いを収めてタカアキを見下ろしてきた。
「どうした?」
「猊下に拝謁したことがあるというのにテレーズの奴、チグサが翠玉であることに気づいていない様子だった。意外とあいつは鈍いのか?」
ヤウデン人だからこそかもしれないタカアキの疑問に、クニヒロは肩をすくめて苦笑した。
「いや、その理由もさっき俺があいつに言ったことじゃないかな」
「おまえがテレーズに? あいつがチグサに一目惚れしたというやつか?」
「そう」
タカアキに頷いて、クニヒロもテレーズの向かった方へ目を向け再び笑った。
「恋は盲目っていうだろ。まあなんにせよ、これで肩の荷が一つ下りたわ。俺もユキさんからの小言は怖いからなあ」
それからしばらくして、テレーズが念願叶ってチグサと遭遇することが出来たことを学内で流れる噂によって知った。
クニヒロやサネユキの期待通り、テレーズの見た目はチグサの気を引くにも充分だったようだ。
五月も半ばになる頃には、毎日のように二人仲良く歩いている姿が構内で見られるようになったらしい。
テレーズもチグサも二人共、各々単独でいても人の視線を惹きつける美貌の持ち主だ。そんな二人が一緒にいるのである。学内の、特に女子学生の間で格好の噂の的となったのも不思議ではない
しかし当の本人達は、そんな他人の噂など何処吹く風で、自分達の好きなように仲睦まじく過ごしていた。
そんな彼らの人目を気にしない一挙一動に、女子学生達はますます熱が入ることになり、彼らの噂は男子学生の間にも広がってタカアキ達の耳にも入ったのだった。
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