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 学内でテレーズという親しい友人が出来たことで、クニヒロやサネユキが期待した通り、チグサの態度にも変化が現れた。  一昨日、トモヤスが喜色満面の様子で、下宿に帰宅したクニヒロとタカアキを出迎えた。喜びに輝く笑顔で帰宅したばかりのクニヒロを自室に引き込むと、トモヤスはその日の昼間の出来事を報告してきた。 「ハツキ君が昼食に誘ってくれたんです!」  聞くと、今日は偶然大学の掲示板前でチグサと出くわしたのだという。  トモヤスから相手に声をかける気は全くなかったのだが、トモヤスに気づいたチグサの方が話しかけてきて、入学式の日のことを謝られたとのことだった。  そしてその詫びにと、昼食をご馳走されたという。 「クニヒロさんのことも伝えたら、また会いましょうと言っていました」  チグサへの敬称もだが、彼のことを話すトモヤスの口調が随分と砕けている。それだけでも四月(芽月)の頃に比べてチグサの態度が軟化していることが感じられた。  嬉しそうに微笑したクニヒロがトモヤスの言葉に諒承を答えると、トモヤスもにっこりと笑った。それから思い出したように、ほうと大きく息をついた。 「どうしたんだ?」  タカアキが尋ねると、今度ははにかむように笑う。 「今日はハツキ君と噂になっているテレーズ君も一緒だったんです。彼を初めて間近で見たから……。ハツキ君ももちろん美人なんですけど、テレーズ君はハツキ君と雰囲気が全然違っていて、でもとても見事な金髪の美丈夫で。女の子達が騒ぐのも当然ですよね。僕も一緒にいられて、何とも目の幸せで、夢みたいな気分になってしまったんです。いや、あんまり呆けてしまって、ご飯を食べるのも忘れそうになっちゃったんで、ハツキ君に笑われてしまったんですが」  最後は照れくさそうに頭を掻いて笑った。  トモヤスの素直な感想と報告に、トモヤスとタカアキは声を出して笑う。  テレーズという親しい友人を作ることを取っかかりに、ルクウンジュの翠玉に人として生きて欲しい。そのカザハヤの願いは、無事に実を結ぼうとしているとタカアキは思った。  しかし、これらのことに不満を持つ者がいた。  それがテレーズを敵視するアリオカだった。
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