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 アリオカ・ヤスシゲは、ベーヌ地域圏でも僻地の南東山間部に位置するオセルの出身である。  州都ベーヌとは異なり、(ひな)の寒村ともいえるオセルでは小学校中学校の義務教育の後、高等学校に進学する率は極めて低い。そんな中アリオカは小学校の時から地域で神童と呼ばれる程の頭の良さを誇り、実家の経済状況では厳しかったものの、奨学金を得て高等学校へ進学した。そしてその後、オセル初の王立学院大学合格者として王立学院へ入学した人物だった。  在郷時のアリオカは、周囲の大人達からは神童と崇め立てられ、家内でも兄妹達とは異なり、親から下に置かない扱いをされてきた。それだけではなく、物心ついた頃から、むやみと他を見下す態度を取るような気質の持ち主であった。  そんな彼であるので、学友や年の近い兄や妹を己よりもずっと程度の低い人間だと馬鹿にし、またその態度を隠そうともしなかった。そのために兄弟や同級生達からは非常に疎まれていたが、本人の成績がいいことや、教師や両親に取り入ることには長けていたことから、彼にものを言う人間は存在せず、彼の自尊心は際限なく大きく育っていった。  また、遠く州都ベーヌに彼と同年代の翠玉がいることも彼を増長させた。  住民の殆どがヤウデン系のオセルには天之神道(あめのしんとう)を信仰する者が多い。僻地とはいえオセルにも他のベーヌ州の町々と同じように、翠玉誕生の報をはじめ、翠玉に関する様々なニュースが新聞などによって伝えられていた。  アリオカ家においても、オセルの他の家と同じように天之神道が信仰されており、しばしば翠玉のことが両親や同居している祖父母達の間の話題となった。  アリオカも子供の頃に新聞の写真で翠玉を目にし、幼い彼の可愛らしい姿に一目で心を奪われた。そして、自分が今ここにいるからこそ、翠玉はこの世に生まれてきたに違いないとそう信じた。 「俺のために翠玉様は生まれてきたんだ」  そう言い切ったアリオカに、いつもならば必ず頷く祖父も首を振って苦笑し、アリオカを窘めた。 「翠玉様は天之大御神(あめのおおみかみ)様に求められてこの世にお生まれになるのだよ。けれどヤスシゲ、おまえのように優秀な人間ならば、いずれ翠玉様の傍にお仕えすることが出来るかもしれない。たゆまず努力はするのだよ」
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