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 何よりも不快だったのは、その少年が男のくせに腰まで届くような長い金髪をしていたことだ。  アリオカは足音も荒く、少年を囲む人の群れに近づき、そこにいた学生を手で押しのけた。 「ちょっと!」  乱暴に押されてよろめいた学生を支えた女子学生が抗議の声を上げる。しかしそんな声など、アリオカの耳には聞こえていなかった。  手を伸ばして少年の長い金髪を鷲掴みにする。そして乱暴に引っ張るとアリオカは怒鳴った。 「何だ貴様は! おまえのようなガキが何故こんなところにいる!」 「おい、君!」  周囲の学生が声を上げ、アリオカを止めようとしたが、当の少年の反応が一番早かった。  髪を引っ張られる痛さに顔を顰めながらもアリオカを睨み上げ、髪を掴むアリオカの手を音高く払い除ける。そして勢いよく席から立ち上がった。  見るからにラティルト人らしい体格をした少年が起立した途端、ヤウデン系の中でも矮小な部類に入るアリオカは見下ろされる格好となる。  自分よりも下級だと思う人物に見下ろされ鼻白んだアリオカだが、すぐに気を取り直すと、ふんと鼻を鳴らした。 「何か不満でもあるのか、この不法侵入者。資格もないのにこんな場所に居座って、その上そんなふざけただらだらと長い髪などして」 「俺は正当な権利を持ってこちらの授業を受けに来ています。それにお言葉ですが、王立学院高等部に生徒の髪の長さに関する規定はありません。俺の髪が長いのは個人の自由であり、上級生といえど他人にとやかく言われる筋合いは全くありません」 「貴様! 何が権利だ! 目上に対して生意気な口をききやがって!」  激昂し、今度は相手の胸ぐらを掴もうとしたアリオカだったが、その手も即座に少年に払われた。  再び鼻白んだアリオカに、若葉色の瞳を据わらせ、少年が侮蔑混じりに言う。 「己の偏狭な価値観を他人に押しつけるなよ」  そのままぐいと顔を近づけ、アリオカの目を見下ろしながら少年は凄みを含んだ声で言ってきた。 「あんたがどこでどういう人生を送ってきたのか知らないし興味もない。けど、ここはヴィレドコーリで王立学院だ。あんたの勝手なルールを振りかざせる場所じゃない」 「貴様……!」  オセルでは教諭や上級生といえどアリオカに反論する人間などいなかった。
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