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 当然、この王立学院でも自分に言い返す者がいるとはアリオカは思ってもいなかった。  それがまさか、自分より目下の高校生から反論をされるとは。  信じられぬ思いに言葉詰まったアリオカの顔が見る間に赤黒く染まっていく。  拳が震え、このふざけた生意気な高校生を殴ってやろうと思った。 「何をしている」  冷静な声が教室内に響いた。  新学期早々のこの諍いがどうなるのかと固唾をのんでいた学生達とアリオカが、驚いて声の方向へ顔を向ける。  だが少年はアリオカを睨みつけたままだった。  上級生から話を聞いている人間であったら、その人が普段から始業の鐘が鳴る前に教室に入ってくることを知っていただろう。  この授業の担当教授であるグィノーが、入口から騒動の現場に目を向けていた。  教授が来たことで、少年の周囲にいた学生達は各々自分の席に着いた。  少年もアリオカから目線を外すと、自席に着席しなおした。  アリオカはそんな少年を忌々しげに睨みつけ、舌打ちをしようと思ったが、ふと気づいてそれはやめた。  担当教授が来たのだ。教授ならばこの侵入者を追い出すだろう。それ以外はありえないはずだ。  そう考えるとこれ以上瑣末な人間の相手をするのも馬鹿馬鹿しかった。自分もどこかの席に着こうと教室内の空席を探す。  そこへ教壇に立ったグィノーが教室内に問いかけてきた。 「そこの立っている学生。君の名は?」  突然の質問にアリオカは周囲に目をやったが、その時にはもう教室内に立っている学生は自分だけだった。  教授はアリオカが正しきことを行おうとしたと気づき、わざわざここで問いかけてきたのだろう。そう思ったアリオカは内心でほくそ笑みながら教壇へ身体を向けた。 「アリオカ・ヤスシゲと申します」  アリオカの回答に頷いて返すと、グィノーは続けてアリオカに問うた。 「ではアリオカ。これは一体何の騒ぎだ?」  再度のグィノーのからの質問に、今度は内心だけでなく得たりとばかりの表情が面に出た。その顔ですぐ傍の少年を見下ろしたが、相手はアリオカのことなど意にも介さぬとばかりに顔を逸らせたままだった。  相手の姿にいささか気勢は削がれたものの、すぐに気を取り直し、アリオカはグィノーに答えるため姿勢を正した。 「この教室に、大学の授業を受けるに相応しくない人間がいたのでそれを正そうとしていたのです」
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