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 教室内の多くの学生も、事の成り行きに興味深そうに息をひそめ、アリオカ、メールソー、グィノーの三者に目を向けている。  しかし、メールソーの周囲にいた学生達は、当のメールソー同様の態度で、手持ち無沙汰に教科書を繰ったりなどしていた。  グィノーの口が開く。 「このメールソー・テレーズは、君の言う通り王立学院高等部の生徒だ。彼は幼年部の頃から毎年学年首位の成績を収めており、現在は高等部の二年生だが、習熟度試験の結果、高等部の課程の殆どを修了と判断されている。王立学院では飛び級の制度はないものの、このように優秀な生徒は上級学年の授業を履修することが出来る。よって、メールソーは学院より大学部の授業を受ける資格を有すると認められ、この授業を履修しているのだ」  グィノーが淡々と述べる事実は、アリオカの期待を裏切る内容だった。  信じられぬ思いにアリオカは目を見張り、顔を紅潮させた。  ──いや、こんなことがあっていいはずがない。自分の正義は絶対だ。  次いで、苦虫を噛みつぶしたような渋面になり床を睨みつける。  事実を納得しないアリオカの姿に、グィノーは鼻で軽く息をついた。 「君は大学部から王立学院に入学した外部生であるので、このことを知らなくても不思議ではない。だが、この教室内にもいる内部生であれば誰でも知っていることだ。高等部の制服を身に纏ったメールソーがここにいることを不審に思ったことを咎めはしないが、メールソー相手に騒ぎ立てずとも、彼と話をしていた学生にでも尋ねれば、彼がここにいる理由などすぐに解ったことではないか」  重ねて諭すグィノーにアリオカは顔を上げなかった。  自分の意志がことごとく枉げられようとしていることが我慢ならない。 「異論はあるか、アリオカ」  拳を震わせ、不服そうに床を睨むアリオカに、やはり平坦な口調のままグィノーが問う。  その問いかけにアリオカは顔を上げ、険しい眼差しでグィノーを睨みつけた。 「こんなふざけた格好の人間に、そんな資格など与えられるべきではない!」 「確かにメールソーの外見は目立つが、果たして人は見た目だけで判断してよいものか?」 「こんな(なり)の人間がまともであるはずがない!」 「その独りよがりな判断で、君は相手に暴力を振るうというのか」
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