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 グィノーのこの発言に教室内の大部分の学生が、一体この教授はいつからこの騒ぎを見ていたのかと首を傾げた。  メールソーでさえも、窓の外に向けていた顔を戻し、呆れた視線をグィノーに向ける。  だがその言葉は、アリオカの怒りを更に激しくしただけだった。 「俺の何が独りよがりだという! こんなことは常識ではないか!」 「この王立学院において長髪の男子生徒は少ないが、規則を逸脱してはいない。だが、自分の勝手な理屈で他人に暴力を振るうことは、学院の規則に抵触するばかりか、ルクウンジュの社会においては常識とは決してされない。……アリオカ」  グィノーは組んでいた腕を解くと、右手ですいとメールソーを示した。 「君が自分のした行為についてメールソーへ謝罪をし、自らを反省するというのならば、今回の件は不問としよう。だが」  今度はその指が教室の扉へ向けられる。 「あくまで自説を改めぬというのならば、即刻この教室から出ていくように。私は、自分の要求を通すために暴力を振るうことを当たり前とし、そしてそれを恥じぬような人間が私の授業を履修することを決して認めない」  グィノーが感情を交えずに言い切る。  ──何故、この俺が……!  アリオカは、こうも自分が否定されることが信じられなかった。  怒りで喉が震え、言葉さえもままならない。  険しい表情で教室内を睨め回したが、正義に反するものであるというのにグィノーの意見に反論しようとする学生は誰もいなかった。  アリオカの正義を侵す張本人であるメールソーに目をやる。  己が元凶であるにも関わらず、メールソーはふてぶてしいまでの尊大さで腕を組んで椅子の背に凭れて座り、アリオカを一瞥すらしていなかった。      ※  結局、アリオカはグィノーのその教室から逃げるように退出した。  この年のメールソーが大学で履修する授業はさほど多くはなかったのだが、それでも必修を含むいくつかの授業がアリオカが履修する予定だったものと重なっていた。  メールソーが目障りだったこともあるが、それ以上にメールソーの存在に抗議する意図を持ってアリオカはそれらの授業全てを放棄した。  郷里であったら、アリオカのこの行動に学校の教職員が血相を変えてアリオカのもとにやってきたことだろう。そしてメールソーのような輩については、アリオカの意図通りに処分されたことだろう。
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