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 意気軒昂としたアリオカの声は彼にも聞こえていたのだろう。  彼に気づいて視線を向けたタカアキに微笑して肩をすくめると、テレーズは階段の横の壁に身を寄せて立ち止まった。  そこは階段上のチグサやアリオカからは隠れる位置になる。 「放っておいていいのか?」  近づいて小さく尋ねたタカアキに、テレーズは再度肩をすくめて見せた。 「俺が出ていったら、余計面倒くさいことになりますよ。それに……」  テレーズは壁の端から少し顔を覗かせて階段を伺った。それからすぐに顔を戻すと、タカアキに向けて悪戯っぽく笑った。 「俺、あんなハツキを初めて見るんです。あいつがこの後どうするのかなって、ちょっと興味があって」 「悪趣味じゃないか?」 「だって、俺の前ではあんな態度、絶対見せないですから。──気になるし、知りたいですよ」  表情はにこやかにそう言う。  だが、テレーズの目は全く笑っていなかった。  彼が今のチグサの状況を面白がっているのではないことが解ったので、タカアキは小さく息をつくと再度階段へ目を向けた。  一体アリオカの脳裏では、チグサはどういった表情でいるというのだろう。  緑の瞳を半眼にし、冷たく己を見下ろすチグサの前で、アリオカは妄言による熱弁を振るっていた。  その殆どはアリオカの妄想によるテレーズに対する(いわ)れのない中傷であり、改めてまとめて聞かされると、あまりの内容にタカアキも腹立たしくなってくる。  しかしちらりと横のテレーズに目を向けると、彼は壁に凭れて腕を組みながら、半ば感心するように笑っていた。  ──アリオカが叶うはずもない。  カザハヤがチグサの相手として彼を選んだのは、テレーズがヤウデンの祭主に拝謁したからだというが、それだけではないだろう。  この胆力も余人にはたやすく真似出来るものではない。 「ですので! あのようなラティルトの下賤な(やから)と共にいますれば、貴方様の高貴なる品性まで汚されてしまいます! 貴方は貴方にふさわしい、もっと高尚な人間とお付き合いなされなければ──」 「耳障りだ」  声量は大きくない。だが通りの良い声だった。
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