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 アリオカは、自分の言葉を遮った声を理解出来なかったらしい。  熱弁の途中で動きを止め、ぽかんと口を開けたままチグサを見上げた。 「ハツキ様──?」 「耳障りだと言ったのが聞こえなかったか?」  それはいかにも翠玉らしい、人の上に立つことを当たり前とする者の高圧的な言葉だった。  タカアキは高揚に息を呑んだ。  だがそんなタカアキの横ではテレーズが沈鬱な表情で顔を伏せていた。  さすがのアリオカにも翠玉の言葉は効いたらしい。  しかしそれでも彼が口を閉ざすことはなかった。アリオカは自らの立場を弁明しようと、しどろもどろになりながら言葉を継いだ。 「お言葉ですが、私は貴方様をお慕い申し上げるベーヌの民として、貴方様のことを思えばこそ……」 「思い上がるな」  背後からでもアリオカの肩が大きく揺れたのが見て取れた。  チグサは右腕を押さえたまま傲然とアリオカを見下ろしていた。  中央食堂で目にした時にも、周囲とは異なる異質な雰囲気を持つ青年だと思った。だが、あの時はこんな威圧感はなかった。  ここまで豹変出来るのも彼が真の翠玉であるからこそだろう。  彼の持つ雰囲気、美しき容貌、そして今日初めて目の当たりにした緑の瞳。  中央食堂で彼の姿を実際に見てからは、彼がルクウンジュの翠玉であることを疑うことはなくなっていたし、彼自身の特質もヤウデンの翠玉と遜色がないと思ってはいた。  それでも、ルクウンジュにおいては翠玉とはいえ、一般の民と同等に扱われていることから、ヤウデンの民としてはどうしても本国の翠玉よりもチグサを軽んじる気持ちが拭い去れずにいた。  だが今、彼がアリオカに対して露わにする姿はどうだ。  ──まさにこれが翠玉。  ヤウデン本国ではタカアキごとき一般人が間近に目にすることなど決して叶わない存在が目の前にある。  タカアキは身震いがするのを抑えられなかった。 「私のことは私が決める。己が身の程もわきまえぬ、貴様のような輩は不快だ」  そこで一旦言葉を切ると、チグサは小さく顎を引いた。そして再び形良い桜色の唇を開くと、アリオカに非情に命じた。 「我が前から消えろ。その姿、二度と見せるな」
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