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 ──馬鹿な。  翠玉からの言葉にアリオカは信じられない思いだった。翠玉が自分を拒絶するなど、そんなことはあってはならないことだった。  ──あいつのせいだ。  そう確信した。  あのふざけたラティルトが翠玉にこちらに関するありもしない悪評を吹き込んでいるのだ。  そのせいで今、翠玉は間違った選択をしているのだ。  ──どこまでも卑怯な奴だ。  身体がわなわなと震える。  だが、たとえ正義によるものであっても、今ここでこれ以上翠玉に注進をするのは、更なる不興を買うことになるだろう。それは避けた方が賢明だ。  悔しさに歯を食いしばり、アリオカは一歩後ずさった。そのまま身を翻し、階段を下りる。  階下で長い金髪が翻った。  改めて相手を確認する必要もなかった。  金髪の主はアリオカには目もくれずに翠玉に近づいていく。  怒りに神経が焼き切れそうであったが、アリオカはそのまま階段を降りきり、理工学部研究棟の回廊を抜けた。  ──いずれかならずあいつを排除し、翠玉を正しき道に戻す。それが選ばれしこの俺の役目……!  その時まではあのラティルトに儚い夢を見させておいてやろう。  そう思い決め、アリオカはその場から離れた。      ※  これがあるべき翠玉の姿なのか、そう感じた。  あのどうしようもない上級生の妄言に対してハツキが厳しい言葉をした途端、ヤウデン人のタカアキの顔が輝いたのが解った。  確かにテレーズは幼少時、すぐ上の兄と一緒にヤウデンの翠玉に拝謁したことがある。  けれどそれはあくまで偶然がもたらした個人的なものであったし、テレーズは天之神道(あめのしんとう)の信者ではない。ヤウデン人が抱くような尊崇を翠玉に対して持ってはいない。  だからこそ、ハツキが『チグサ・ハツキ』で在ることが当然だった。  だが天之神道を信奉するヤウデン人のタカアキにとっては、ハツキは現人神(あらひとがみ)たる『翠玉』なのだ。  ──でもここはルクウンジュだ。  タカアキが歓喜の表情でテレーズを振り返った。 「君の友人は恰好いいな」  タカアキの本心からすると、ルクウンジュ人であるテレーズに向けたその言葉は、随分と表現を控えたものだったに違いない。  テレーズはタカアキに肩をすくめた。 「でしょう? 素敵でしょう? ──……けれど」
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