恋をした

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 商店街の中。  それは裏通りにある、どちからかといえ寂れた一角に位置していた。  ホントにここ?  高橋隼に指示された場所の扉の前で躊躇している。壁に取り付けられた一枚のドア。窓はなく、中の様子を見ることは不可能だった。  私は携帯を片手に、再度位置を確認する。 「友人の美容室でメイクをさせてほしい」  懇願され一週間。一緒の職場とはいえ、あの日以来会っていない。  冷静に考えると見知らぬ男に誘われ、気分を良くした馬鹿な女の話。  詐欺めいた犯罪の臭いを感じつつ、在りそうで無い日常を体感してみたいという好奇心が沸いた。  ドアノブに手を掛けると頬に風が吹き抜けた。 「いらっしゃいませ」  足を一歩踏み入れると、そこには非日常の空間が広がっていた。  コンクリート打ちっぱなしの内装はクールな雰囲気を演出していた。  小物は対照的な天然素材の木材が組み合わせてあり、温かみと居心地の良さを感じた。
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