恋をした

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「ホントはこっちの世界でやっていきたいんですけど」  蒸しタオルが顔に当てられた。 「理想と現実って難しいですよね」  高橋隼の大きな手で私の顔は覆われた。  その手は私の頬や額を優しく包み込む。  そして小鼻やまぶたなどは指を使ってスキンケアが施された。  これだけで鏡には別人の自分がいた。  顔色はよくフェイスラインもスッキリしてみえた。 「学生のとき文化祭でメイクをしたのがきっかけでした」  彼は私の顔に指でトントンと下地をのせ、クリームファンデーションを塗ったあと、丁寧にスポンジを使い凹凸部分を馴染ませた。 「正直、自分の顔にうっとりしました。女子より綺麗な自分に夢中になっていました」  普段メイクを殆どしていない私には、全てが新鮮だった。  大きなブラシが私の肌を撫でる。  これまでメイクの解説を一切しなかった高橋隼は手を止めると鏡の私に尋ねた。 「茜さん、コンプレックスは?」 「目」  私は咄嗟に答えていた。 「目尻のほくろがセクシーなのに?」 「一重だから」 「では最大限に魅力を引き出します」  そう言うと仕上げに赤いマスカラを上下の睫に塗った。 「キレイです」  目の前にはジェニファーがいた。  自分の顔を触ると、ジェニファーが反応した。    私は引き寄せられるように鏡に近付いた。
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