孤独は溶け合い、波を起こす

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 全く、予期していなかった。  そう言ったら、嘘になるのだろう。 「では、こちらからも連絡をしてみますので」  冷静な口調で応えてから、私は、自分が薄情な人間だと思われるのではないかと、心配になる。 「あの子の事ですから、放っておけば、戻ってくると思って」  女の子は頑固だと、先生も父親ならお分かりでしょう。  電話越しの訴えに、お父様も大変でしたねと、労った言葉は社交辞令に過ぎない。  18歳になったばかり子を、放っておけばなど、なぜそのようなことが言えるのか。 「では、また何かありましたら」  30分ほど続いた電話をようやく切って、車のエンジンをかける。  本当に、時間の無駄だった。  2日間、娘が家を出たきり戻らないと、出勤途中の私に連絡をしてきたのは、草壁(くさかべ)杏樹(あんじゅ)の父親だ。  休日だから、友達の家にでも行ったのかと、警察にも取り合ってもらえなくてなどと、言い訳めいた事ばかりで、彼の話からは、肝心なことは何もわからなかった。  どんな服装をしていたのか、居場所の心当たりは、頻繁に連絡をしていた者はいるか。  学年主任には連絡済みだが、こちらだけでそれらを把握するのは、難しいだろう。  私が父親の対応をしていた間に、少しでも、物事が進展してれば良いが。  高校教師をして、今年で5年。  このような事は初めてだが、それなりに上手く対応できていると思う。  自分も、早く学校に向かわなくては。  ハンドルを握った手も、震えることはなかった。
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