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他の教員や、彼女の父親が着くまでは、まだ暫くかかるだろう。
車を路肩に止め、彼女がいるであろう場所に向かう。
すっかり、本降りになった雨の中、私は草の生い茂った道をひたすら走る。
こんな時に限って、傘は用意していない。
だが、雨に濡れることなど、今は何の抵抗も感じなかった。
「杏樹さん!」
ようやく開けた場所に出て、すぐに彼女の姿を見つける。
身がすくむような岬の上、下界を望むかのようにうずくまった彼女に、私はゆっくりと歩み寄る。
「パパ、ある女の子の話を知ってる?」
お父さんに乱暴されていた女の子は、お父さんの罪滅ぼしに、自分が代わりに、崖から飛び降りるの。
「女の子は、私と似てるね。私の父さんも……」
岩壁に打ち付けられる波音が、細いその声をかき消そうとする。
今から自分も、その女の子と同じようにするとでもいう気か。
すぐにでも、彼女を抱きしめられないのは、こちらに背を向けている瞳が、最初に私の元へ訪れた日の、あの瞳だという予感がしたからだった。
自身の頬に伝う液体が、雨水か焦燥から出た汗か、もうわからない。
「身代わりになった他には、どんな意味があると思う?」
「……それは、どんな?」
迷信の中の女の子の話を続ける彼女に、戸惑うことしかできない。
「パパには、きっとわかるよ」
子は、親に似るっていうでしょ。
立ち上がった彼女が、私と向き合う。
君は、私のどこまでを知ってるんだ?
脳裏に浮かんだのは、遠くから眺めていた父の背中と、こちらに向けられた娘の瞳だった。
応えなくてはと、開けた口に流れた雨の味が苦い。
「私も、私の父さんのようになるの?」
あの、ひどい人間になるの?
苦しそうに息をする肩に、揺らいだ瞳に、私は今こそ証明しなくてはいけない。
かつて、自分が父さんと呼んでいた、あの男とは違うことを。
決して、私と目を合わせようとしなかった、あの無責任な男とは違うことを。
「そんなこと、あるわけがないよ」
君は、素晴らしい人だよ。
私は、一歩ずつ彼女へと足を進める。
私をパパと呼んで求めた君が、家に帰りたがらない理由を見逃したことを、どうか許して欲しい。
「さぁ、パパのところにおいで」
彼女に、手を差し伸べる。
私は、君と向き合うことを恐れない。
その証明が、私たちを救う唯一の方法だった。
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