ドラゴン殺し系女子の小さな一歩

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「……疲れた」  転移先に現れた魔法陣の外に出て、ミアこと歩美(あゆみ)は重いトーンで言った。ここはマンションのワンルームの狭くて薄暗い廊下だ。いつもは気にならないのに、先ほどの草原の後だとえらく空気が淀んでいる感じがした。  異世界から帰ってきて最初に目に入るのが散らかった自宅なのは、毎度のことながらテンションが下がる。服がプチプラの普段着に戻っているのも、魔法が解けたみたいで萎えポイントだ。  一人暮らしをしていた歩美はある日突然、異世界、ドッペルからの使者に「助けてほしい」と言われた。それからドッペルのためにモンスター退治を始めて、そろそろ1年が経つ。2つの世界、1つの体。あちらでは魔力が使えるものの、それなりに体力を消耗する生活だった。  非正規のオフィスワークをしている不安定な身で、異世界の手助けをするなんて、我ながらお人好しだと思う。逆に、フルタイムで働いていたら異世界に行っている暇なんてないだろうが。  ひとまずメイクを直して夕飯の買い物にでも行こうと、歩美はノロノロと洗面台に向かった。  が、鏡を見てドキッとした。崩れかけたファンデーションのせいだけではなく酷い顔だ。この間やっと消えたと思ったのに、また頬にポツポツとニキビが復活している。その上、肌は荒れてガサガサだし、寝不足だからか(うっす)らとクマまである。  歩美は改めて自分の部屋を見やった。床には知らない内に綿ぼこりが転がり、カーテンレールにはかけっぱなしの洗濯物が数点。  20代女子として、これは本気で取り組まなければやばいのではないか――。  
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