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一方、龍太は男子生徒から質問攻めにあっていた。今回、持ちあがり組として音楽科に入ったのは龍太ともう1人だけであり、生徒のほとんどが新入生だったからだ。
「なあ、村上。あの綺麗な子、彼女?」
考える事は一緒らしい。
「違うよ。どちらかといえばお守かな」
龍太が肩をすくめる。横にいたガキ大将風の生徒が苦笑する。持ちあがり組の北原友貴。声楽専攻のどちらかと言えば大雑把な性格の持ち主だ。緑陵学園の理事長の息子であり、飛鳥の幼馴染でもある。
「その表現当たりだよ、龍太」
「でしょ?」
「…でも、外見だけで判断するなよ」
友貴は小声になった。
「かなり危険な性格してるんだ、あいつ。神道飛鳥って言うんだけど、生徒だろうと先生だろうとかまわず喧嘩吹っかけるし、平気で授業サボるしね」
「警察官に喧嘩売った時はどうしようかと思ったよ」
龍太も小声になって友貴の話を補足した。
「うげ」
「信じられない」
その場の全員が顔をゆがめる。
「ま、仲良くなれば、そんなに悪い子でもないよ」
龍太がフォローした時、教室中に女子の歓声が響いた。
「神道さん、かわいい!」
「なんだ?」
友貴が女子の方へ歩いていく。どう言う事か聞きに行ったのだ。
「飛鳥の事、かわいいっていう人達、初めてだ」
龍太が呟く。
「そうなのか?」
「うん。とりあえず、持ち上がりの中では飛鳥には寄るな、触るなっていう考えが当たり前だから」
「どう言う子なんだよ」
生徒の1人が茫然と呟いた。
「だから、さっき言った通り。でも、僕が言ったって言わないでよ。飛鳥に怒られちゃう」
「あれ? 村上って女っぽい言葉遣いしてねえか?」
「そうかもしれない。僕、女性だらけのところで育ってるから。今は寮生活だけどね」
「へえ」
「傑作だったぞ」
友貴が戻ってきた。ひとしきり笑って、ようやく口を開く。
「すっげー笑える。美衣がさ、飛鳥に恋って聞いて何を連想するか聞いたんだって」
「なんて答えたんだよ」
生徒の1人が身を乗り出すようにして聞いた。
「池の中で口パクパクさせてる馬鹿な魚、だって」
「それはすごい」
その場にいた全員が、顔を見合わせて爆笑した。
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