プロローグ

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 私立緑陵学園。  幼等部から大学部までの私立によく見られる一貫教育校である。この学園には珍しい特色があり、幼等部や初等部の教育で生徒の個性を活かし、中等部より音楽科、体育科、普通科に別れて個性を伸ばすという教育方針を持っている。初等部が4年生の時にクラス替えを行うのも、3年間授業を受けている間に、児童たちの特性を確認し、4年生からグループ学習として得意分野を伸ばしていくのが目的だからだ。  始業式が終わった後の4年生の教室は、3年間同じ顔ぶれで授業を受けていた児童達が、見知らぬクラスメートの多い教室で、なんとなく落ち着かなかった。児童達はそれぞれ以前同じクラスだった友人達と話している。  村上龍太もまた同じクラスになった友人達と、肩を寄せ合う様にして話していた。 「そう言えば、同じクラスになっちゃったよなあ」 「誰が?」  友人の岸端真之介の言葉に龍太は尋ねた。 「あいつだよ、あいつ」  指差した先に1人の少女が座っていた。誰とも話さずに座っている少女は『美少女』という言葉で済ませるのがもったいないくらい綺麗な顔をしている。その少女を見た事がなかった龍太は不思議そうな顔で友人を見た。 「誰?」 「知らないのかよ。神道だよ。神道飛鳥」 「ああ、あの…」  龍太は学校中に広まった噂を思い出した。  神道飛鳥。小学3年生でありながら、先生に向かって悪口雑言を繰り返し、とある先生には腹を殴って失神させたらしい。その先生はそれを理由に退職してしまった、という噂である。 「綺麗な子だね。信じられない」  龍太は改めて飛鳥を見つめた。背中まで伸びた綺麗な黒髪、真っ白な肌、整った顔立ち、すらりとした体つき、一見『大和撫子』としか思えない。 「甘いなあ、龍太。ああ言うのが怖いんだって」  龍太の肩を軽く叩きながら真之介が偉そうな事を言う。龍太が苦笑した時、教室の戸が開き、担任の先生が入ってきた。 「クラス替えで知らない人も多いと思います。1人ずつ自己紹介しましょう」  龍太は飛鳥と通路を挟んだ隣同士だった。なんとなく気になって横をうかがうと、飛鳥は無表情で黒板を見つめていた。 「はい。次は神道さん」 「…神道飛鳥」  飛鳥は立ち上がりもせずに名前だけで自己紹介を終えてしまった。 「村上龍太です。ピアノを弾くのが好きです。よろしくお願いします」  一方の龍太は立ち上がって、きちんと挨拶をして着席する。ふと横を見ると、飛鳥と目が合った。  これが、飛鳥と龍太の初めての出会いだった。
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