シチューは温かいうちに食べるもの

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「この前あなたが浮気したことなんだけど」 突然右ストレートで殴られたような衝撃だった。喉元を通り抜けようとしていたじゃがいもが、口から飛び出そうになる。そんな俺を冷めた目で見ながら、彼女は熱々のシチューを淡々と食べ続けた。 「もう浮気はしないということを証明するための手段として、言葉、態度、改心、以外はあった?」 「え…それ以外には思いつかない、かな…」 もうシチューを食べることは諦め、立ち上る湯気をただ見つめていた。俺の言った言葉に返答はなく、相変わらず金属音とテレビの中の笑い声が響く。カシャン、とスプーンを置いて手を合わせた彼女をチラ見する。相変わらず口角は下がりきった状態で口を開いた。 「あなたが浮気したおかげで、筋トレを始めることが出来ました。」 言われてみると腰掛けた椅子の背もたれには背中をくっつけず、背筋を伸ばし凛とした姿で俺を見つめていた。 「そういえば心なしか背筋、綺麗になった?」 先程までの下がり切った口角が微妙に上がったのを見逃さなかった。すかさず言葉を続ける。 「それって俺のため?」 「ええ。あなたが万が一、また浮気したときに殴れるようにね。」 俺は今アハ体験を見させらているのか、と思わされるほど口角は一瞬で下がっていった。瞬きなんて、するんじゃなかった。俺の喉はもう何も通れる気配がない。 「調子に乗りました…」
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