シチューは温かいうちに食べるもの

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しばしの沈黙が流れる。俺のシチューはほとんど冷めきっているように見えた。彼女の顔色を見ながらおそるおそる、言葉を続ける。 「あのさあ…俺が浮気したせいでさあ…外人、地雷になった?」 「はあ?ならないわよ。悪いのはあの女だけで、他の外国の人には何の罪もないでしょ。」 あの女、というのは俺が浮気した女性のことだが、そもそも浮気というよりかは俺が酔っ払いすぎて誘惑されるがままだっただけで…。と、言い訳したくなったが、世間ではその気がなくとも致した時点で浮気認定されるのだから何も言うまい。 「この前レストラン行ったときだって胸元ざっくり開いた台湾系の女ばっかり見て…。」 「えっ。タイ人、視界におった?全然気が付かなかった。」 我ながらすっとんきょうな声を出してしまったせいで、彼女がカッと立ち上がった。 「うそつき!本当はシチューなんかじゃなくて、パクチーとかが食べたいんでしょ!」 「うそじゃないって!俺はこれから先もずっとお前のシチューが食べたいよ!」 思わず「これから先」という未来を見据えた言葉を出してしまった。彼女の方を見ると少し驚いた表情をした後、がっくりと肩を落としながら再び座った。そして小さな声で呟く。 「私だってそういう洋服買ったもん…」 表情こそ見えなかったが、か細い声で言った言葉は俺の心を動かすのに十分すぎるほどだった。俺は冷めてしまったシチューを温め、一気に食べきった。そしてそのまま、浴室へ向かう。 10分程経ってリビングに戻っても彼女は椅子から動くことなく、バラエティ番組を視界にただ入れていただけだったので声を掛ける。 「今、風呂洗った。」 少し赤い目をした彼女がこちらを向く。 「え…浴槽洗ってくれたの?ばい菌、綺麗になった?」 「うん、なったよ。だから、あのさ、」 なんだか無性に緊張したので、小さく深呼吸してから続ける。 「一緒に入らない?」 多分、俺の顔は赤かったと思う。でも、彼女の頬が、耳が、赤くなっていくのを見て全部どうでも良くなった。彼女は無言で立ち上がり、俺と一緒に浴室へ向かった。 湯船に浸かりながら、横で体を洗う彼女を見つめる。あれ、なんだろう。今までとは違う気がする。俺の感覚が間違いじゃなければ。 「最近、キレイになった?」 「バカ、気付くのが遅いよ…」 彼女は照れくさそうに呟いた。筋トレも、否定はされたが自惚れではなく俺のためにやってくれたのだと思ったらとても愛しかった。 「結婚して欲しい。」 思わず口をついて出た言葉に、彼女は目を大きく見開いたあと口角を目一杯上げて笑った。 ああ、今回はアハ体験じゃない。やっぱり笑った顔が好きだ。 「で?」 「え?」 彼女は満面の笑みで続けた。 「大金、未来にあった?」 夢の結婚生活はもう少し、貯蓄が貯まってからになりそうだ。
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