きれいの盾

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 出勤前に顔を洗いながら、鏡の前でつぶやく。鏡に映るわたしの素顔は、今までに見たことのないくらい、肌のきめが整っていた。前は鏡を見るたびに憂鬱だったのに、今では毎朝起きて鏡を見るのが楽しみになっている。 「行ってきます!」  めまぐるしく日々が過ぎて、今日から下期がはじまった。カレンダーをめくればちょうど「一日」で、月曜日だった。なんとなく「今だ!」と背中を押されているようで、わたしは入社してから初めてマスクを外して出勤することにした。  いつもより二本早い快速電車に乗って、会社に行く。さすがにマスクを身につけていない姿で堂々と、大勢のいるオフィスに入っていける勇気はまだない。  一番乗りかと思っていたオフィスには、すでに電気が点いていた。わたしは(はや)る鼓動を感じながら、ドアを開ける。 「……はよっす」  知っている声が耳に飛び込んで、おもわず肩が跳ねた。出入り口のそばにあるホワイトボードに立って、吉川くんが今日の予定を書き込んでいた。わたしを見ると、目をすこし見開いて、書く手が止まった。 「お……はよう」 「マスク」  表情を戻した吉川くんが冷静に言う。
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