きれいの盾

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 そこまで言って言葉が止まる。吉川くんの右目の下に、ほくろがある。わたしはそのことに初めて気づいた。ちゃんと目を合わせて喋ったことがなかったから、ぜんぜん知らなかった。  意識した途端、吉川くんの底まで澄んだ黒い瞳がわたしの脳を焦がした。用意していたの文章は分解されて、支離滅裂になる。  顔が熱くて、口ってどう動かすんだっけと必死に考えていると、吉川くんが先に視線を外した。わたしの心臓は大暴れしていて、このうるさい音は吉川くんまで届いているんじゃないかと不安になる。 「助かる」 「……へ?」  ふたたび、今度はばっちりと目が合う。よほど間抜けづらを見せてしまったのか、吉川くんが不機嫌そうに眉をしかめる。 「ありがとうくらい、俺も言うんだけど」 「あ、いや!」  あせって鼻先に指を置く。マスクを引き上げようとして、そういえば隠れるものがないと気づく。余計にあせってしまい、言葉にならない声を上げる。  あたふたするわたしを見ながら、吉川くんは目を細めた。 「マスクしてない方がいいよ、澤原」 「え」  「そっちの方が、いい」  吉川くんは起動したパソコンに身体を戻して、キーボードを打ち始めた。わたしは今度こそ頭が固まってしまい、何も言うことができなかった。
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