きれいの盾

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 ***  わたしがマスクを外したことは、社内でちょっとしたニュースになった。すれ違うたびに驚かれて、みんなが「肌、きれいだよ」と褒めてくれた。多田さんは「娘に教えたい!」とわたしのケア方法に興味津々だった。それでも、三日も経てば周りもすっかり見慣れたようで、金曜日の今日にいたっては、わたしの肌について指摘する人はいなくなった。 「よし、送信」  取引先へのメールを打ち終えて、わたしは小声でつぶやきながら、送信ボタンをクリックした。飛行機が離陸する効果音が流れて、張り詰めていた気持ちが一気にゆるむ。業務終了、ようやく休日に突入だ。  今日はこのあとネイルの予約を入れている。マスクのない状態でお店に入って、麻衣さんをびっくりさせたい。麻衣さんの驚く顔を想像しながら、羽の生えたような気持ちでデスク周りを片付ける。  左隣のデスクに目をやると、吉川くんはいなかった。無造作に積まれた書類の山と、電源の点いたパソコンから、まだ帰っていないと分かる。  すぐに戻ってくるなら、ちょっと待っていようか。わたしは机の上を片付けながら考えた。
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