きれいの盾

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 来週の海外出張は吉川くんにとって初めての経験で、準備に打ち合わせにと、毎日忙しそうにしていた。結局わたしが手伝えたことはあまり無かったけれど、時折頼まれごとを引き受けると、かならず「ありがとう」と「今度お礼する」がセットになって返ってきた。  お礼は必要ないから、しっかり実力を発揮して、無事に帰ってきてほしい。せっかくだから自分の口から応援の言葉を伝えたかった。  ネイルは六時半からで、まだ余裕はある。そう思いながらスマートフォンを確認したときだった。 「澤原さん、元気ー?」  聞き慣れない声に、驚いて身体を動かす。 「小出くん。お疲れ……」  小出くんは同期入社で、声が大きくて変に目立ちたがる苦手なタイプだった。今は他部署に配属となったため接点はほとんどない。  どぎまぎしているわたしに、小出くんは吉川くんの椅子にどかりと腰掛けた。 「残業?」  貼りつけたかのような笑顔に、わたしはどこか不安を覚える。 「ううん。もう片付けしたら帰るよ……?」
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