きれいの盾

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 風邪の冬、花粉症の春。一年を通してわたしが生きやすいのはこの時期だけだ。真夏にマスクなんてしていると、十中八九すれちがう人に振り向かれてしまう。それでも、こんなみっともない肌をさらすくらいなら変な目で見られた方がましだった。  デスクに戻って、お弁当箱を見つめる。ちらりと左隣のデスクに目を配って、マスクを顎までずらす。吉川くんがいないことにホッとしながら、一口サイズのクリームコロッケを頰張った。咀嚼するたびにマスクがもぞもぞと動いて、腫れたニキビに刺激が入る。痛さに眉をひそめながら、玉子焼きに箸を伸ばしたときだった。 「吉川。俺の机汚いから、お前んとこで食べていい?」  距離のある出入り口から、張りのある高い声が聞こえた。目を向けると、別チームの小野くんと、吉川くんが、色のついたコンビニ袋をぶら下げて、こちらへと来る。  うそでしょ。  わたしはおもわず泣きそうになった。今日はことさらニキビが腫れているからすっぴんで、絶対に顔を見られたくなかったのに。
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