きれいの盾

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 頰に熱が集まってしまい、口から出せたのは不恰好なお礼だけだった。 「ところで、時間いいの?」 「え?」  壁の時計を見ると、予約時間の十五分前だった。急いで出なければならない。わたしは騒がしく椅子を鳴らして、立ち上がる。 「誰かと約束?」  引き止めるように強い口調で訊かれる。吉川くんの瞳はわずかに揺れていた。 「う、ううん。ネイルの予約があって」 「ああ。……それ、色変えるの?」  節張った指がわたしの手元を指す。予想していない展開にわたしは、どうかな、としどろもどろに答える。 「先月からだよな、その色。透明よりいいと思う」  そっけなく言われた言葉が、数秒遅れて脳へ届く。血液が頭に登って、頭の中がまっしろになった。  マスクもネイルも、気づいてくれたのはいつも吉川くんが最初だった。  胸からたくさんの想いが込み上げて、わたしはあえぐように声を出した。 「わたし、ずっと肌荒れがひどかったの。自信なんて持てなくて、でも堂々とした自分になるために、変わろうって頑張ってて……」
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