きれいの盾

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 一緒のチームで仕事をするようになって一年、とにかく吉川くんに嫌われないように、わたしはなるべく目を合わせることなく、会話が必要なときは、マスクを絶対にするようにしていた。 「澤原ちゃん、可愛い顔してるのに、可哀想だねぇ……」  気の毒そうに慰めてくれる小野くんに、わたしは「可愛くなんかないよ」と、首を振って否定する。お世辞を言わせてしまったことが申し訳ない。  そのときだった。 「小野。『可哀想』って、それ失礼だから」  吉川くんの低くて冷たい声が、すぱんと小野くんを切った。 「本人が悩んでるんだから、追い打ち掛けるなよ」  つっけんどんに言う吉川くんに、小野くんは不思議そうな顔をした。数秒経って「えぇ!」と大声を上げて、そういうつもりじゃねぇよと焦りはじめる。  状況が呑み込めなくて、ぽかんとしていると、吉川くんの顔がこちらに向いた。重い前髪から覗く、切れ長の目がわたしを捕らえた。 「澤原も。何謝ってんの?」 「え……」 「悪いことしてないなら、堂々としてろよ」
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