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いじけた気持ちでこぼすと、麻衣さんは爪の表面にやすりをかけながら「違うんだなぁ」とやさしく笑った。
「自分の努力次第でどうにでもなるのが『きれい』なの。きれいは魔法じゃない、武装よ」
「武装……」
それならわたしにも覚えがある。わたしの鎧は、じょうずに逃げるためのものだけれど。
「わたしたちはきれいを盾にして、自信の剣を持って、世間の荒波と闘うの」
闘うという発想に、瞬きを繰り返す。麻衣さんは手品の種明かしをするようにこそっと話を続けた。
「わたしも実は、めちゃくちゃ肌荒れ体質なの」
「え?」
「皮膚科へ行っても治らないし、高い化粧品を買っても効果ないし、まじで人生終わったって何度思ったことか」
間近で見ているゆでたまごのような肌が、そんなトラブルを抱えているとは思えなかった。
「でもどうしても『肌が弱い』で諦めたくなかったの。なんとしてでも『きれい』という武器を手に入れるために、死ぬほど努力したわ」
「どうしてそこまで……」
おもわず訊くと、麻衣さんは茶目っ気たっぷりに肩をすくめた。
「死ぬほどモテていたバイト先の先輩を何としてでも落としたくって」
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