きれいの盾

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 今日も憂鬱な時間がやってきた。  ゆっくりと電子レンジのなかで回るお弁当を見つめながら、わたしは前髪を直す。レンジが止まって、指先で鼻から下を覆う不織布のマスクを引き上げる。 「お疲れさま」  レンジの扉を開けていると、お弁当を手にした多田さんに話しかけられた。 「今月も忙しいねぇ。玲花ちゃん、今日定時で帰れそう?」  子持ち主婦の多田さんは、新卒二年目のわたしのことをいつも気にかけてくれる。わたしは苦笑いして「遅くても……六時には上がれると思います」と返す。  多田さんは眉を垂れ下げて、私を見た。 「肌荒れひどい?」  わたしは頰に当たるセミロングの髪を耳にかけて、曖昧に笑ってごまかす。  多田さんの娘さんは中学生で、肌荒れとニキビがひどく、月に一度の病院通いがやめられない。季節を問わずマスクをしているわたしに、もしかして、と話しかけてくれたのが、多田さんと仲良くなったきっかけだった。 「土日に休めば、きっと良くなると思います」 「あんまり無理しないでね」  お礼を言って、わたしは多田さんに場所を譲る。
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