邂逅

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邂逅

 僕の右頬には生まれつき、まるで刃物で傷つけられたような痕が2本あった。お腹の中にいたときや出産のときに何か問題があったのかと訊くと、両親は何もなかったと答えた。母はこのことを気にしていたが、父はいつも何か考え込むようにこの痕をじっと見ていた。周りの目線もあったが、僕自身は特に気にもしていなかった。  ただ、この痕のせいなのか、僕には他の人には視えないモノが視えたりすることもあった。それは幽霊と呼ばれるモノであったり、ただ黒い塊があったり、誰かの後ろに影のように付きまとっているモノが視えていた。一度視えているモノを両親に尋ねてみると、ふたりとも不思議そうに「本当に視えるの?」と逆に訊かれてしまい、「うん」と答えた。   そのときの両親の反応は忘れてしまったが、でも、それが視えることは僕にしてみればすごく当たり前のことで、なぜ他の人には視えないのか不思議だった。それでも、それが視えている世界が僕の世界だった。  小学校の夏休みだったと思う。僕は友達と一緒に近くの公園付近でかくれんぼをしていたときだ。友達のひとりが鬼になり、僕はかくれる場所を探していた。そのとき、僕はふと公園の近くにあった林の中に隠れようと思いついた。その林はキツネの妖怪が出ると僕たちの小学校で有名になっており、誰も近づこうとさえしなかった。  ――もし本当に妖怪がいるなら会ってみたい。  それは僕が常日頃から思っていたことだ。  ここならば、きっと見つからないだろうと、僕は意気揚々と林の中へ入っていった。
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