ピュアラブ

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「ちょっと犬飼くん。これどういうこと? 昨日のうちに纏めといてって言ったでしょ」 「あ、はい。すみません」 「謝れば良いって問題じゃないんだから」  私は北川咲子。三十五歳独身、彼氏無し。仕事一筋十五年目の今、性別も年齢もバラバラな六人を束ねる営業部Cチームのチームリーダーを任されている。 「今すぐ纏めてきます!」  犬飼くんはブンと頭を下げて、ふわふわとした髪の毛を揺らした。私はその頭に向かって「ちょっと待って、犬飼くん」と手を振る。週末に塗り直したスモーキーピンクのネイルは我ながら上手く出来たと思っている。 「時間あげるからちゃんと纏めて。今日中にね」 「分かりました。ありがとうございます!」  彼はもう一度頭を下げて自席に戻って行った。社会人二年目の彼はひょろりと高い身長に、高校生と言っても十分通用しそうな童顔を乗せていた。真面目で素直で可愛げはあるのだけれど、如何せんうっかりミスが多かった。計画を立てて筋道通りに何かをするということが苦手なのだ。行き当たりばったりとまではいかないけれど、取りあえず突っ走ってやってみる、そんな感じ。今はまだ若いから許されるし力業で乗り切ることが出来るだろうけど、このままではそのうち駄目になる。 「北川リーダー。二番にN社の高橋さんからお電話です」  Cチーム島の端に座る山田さんが声を掛けてくる。 「ありがとう。出るわ」  私は長い前髪を掻き上げて受話器に手を伸ばした。
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