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デートって何ですか?
さっきとは違った意味で残業を許されなくなった私は、必死の思いで定時までに仕事を終わらせた。
女子社員は更衣室で制服から私服に着替える必要があるので、田中課長とは一階ロビーで待ち合わせだ。
エレベーターを降りると、今朝美波を口説いていたのと同じ場所に課長が立っていた。
「お待たせしました」
「おう。……小暮はどこで見てたんだ?」
「あそこの柱の陰です」
すぐそばの太い柱を指差すと、田中課長は右手で両目を覆った。フラれた現場を部下に見られていたことが、余程恥ずかしいのだろう。気持ちはわかる。
「一つ言い訳させてくれ」
一緒に歩きだした課長がそんなことを言うから、内心吹き出しそうになった。「あれはフラれたんじゃなくて、彼女はたまたま今夜都合が悪かっただけだ」とでも言うのだろうか。
あの後、美波は梶原くんと付き合うことになったみたいだから、明らかに課長はフラれたんだと思うけれど。
「言い訳って何ですか?」
「あれは口説いてたんじゃなくて、飲みに誘っただけだ。俺には面食いの親友がいるんだが、美波さんがキレイになってたからダブルデートはどうかとふと思いついてだな」
コホンと照れたように咳払いをした課長をまじまじと見つめてしまった。
ダブルデート⁉ 課長が? 意外過ぎる。
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