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「そうだったんですか。じゃあ、課長のお相手は別にいて、お友達に美波を紹介しようとしたってことですか?」
「まあ、そんなところだ。だから、決して口説いていたわけでもないし、フラれたわけでもない。よって八つ当たりする理由もない」
「はあ、そうですか」
結局、フラれたんじゃないと言いたかっただけなんじゃないかと思ったりもしたけれど、何となく私の足取りは重くなった。
課長に彼女がいたなんて知らなかった。そんな物好きがこの世にいるとは思いもしなかった。
へえ、そうなんだ。なーんだ、そうだったんだ。
居酒屋への道をとぼとぼ歩く。
さっき更衣室で、「もっと可愛い服を着てくれば良かった」なんて呟いていた自分がバカみたいだ。メイク直しも念入りにしたし、髪もヘアアイロンで巻いてきたのに。
「この店だ」
「はい?」
田中課長が立ち止まったのは、赤ちょうちんが揺れる居酒屋ではなく、隠れ家風の洒落たフレンチレストランの前だった。
「え⁉ 居酒屋じゃないんですか?」
「フルコースって言っただろ?」
「だって、こんな高級フレンチで飲みにケーションだなんて……。うちの会社、そんなに儲かってましたっけ?」
「会社の金じゃない。飲みにケーションは口実だ。そうでも言わないと、おまえとディナーデートなんて出来ないからな」
「は?」
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