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「何だよ、変な顔して。俺がおまえのことを好きだっていうのは気づいていただろ? あれだけアプローチしてたんだから」
「アプローチ? いつもいつも細かいことを注意して、みんなの前でくどくどと説教することがアプローチだったんですか?」
「それはおまえが鍛え甲斐のある部下だからだ。そうじゃなくて、エレベーターの中で近くに立ったり、懇親会で隣に座ったりしてただろ?」
「知りませんよ、そんなこと。アプローチするなら、もっとわかりやすくしてください」
たとえば、と言って、私は課長の目を見て身を乗り出した。
「私のこと、最近、キレイになったと思いません? これでも私、頑張ってるんです。なのに私の努力には気づかないくせに、美波のことは褒めるなんて酷くないですか?」
「もちろん気づいてたよ。だから余計に焦って岸田との仲を引き裂こうとしたんじゃないか。それに最近急にキレイになった美波さんとは違って、小暮はずっと前からキレイだよ。俺にとっては誰よりも魅力的だ」
課長に甘い声で囁かれて、胸がきゅんと痛くなった。
あれ? でも!
「なんで私のことは『小暮』で、美波は下の名前呼びなんですか⁉」
「それは美波さんの名字を知らないってだけだ。おまえがいつも『美波』って呼んでるから。何だよ、ヤキモチか? 可愛いな」
「か、可愛い? 私が?」
「可愛いよ、冴香。俺と付き合ってほしい」
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